東芝の非上場化が
悪いことばかりではない理由

 また非上場化は、悪いことばかりではない。所有と経営が分離していることにより、株主という所有者が短期的な利益しか見ないことに対し、経営者は長期的な視点で持続的な成長のための戦略を立案する。それは時に短期的利益と対立するので、株主対策が必要となる。

 しかし、非上場企業がオーナーだけに長期的戦略のメリットを説得すれば、憂いなく長期的視点での経営に当たることができる可能性がある。もちろん、今回のように株主から取締役を迎えることは利益相反につながるので、一定のルールが必要であり、そのルール策定も東芝は行っている。

 とはいえ、島田社長の胸中は海外のファンドによる東芝の所有に傾いているとは思えない。今回の経営方針説明の中で、ものづくりの資産を活用したIT戦略という、かねてから島田社長が主張してきた経営戦略を説明する前に、エネルギー事業の話を行い、原発事業についても触れていた。

 東芝は民間企業であると同時に、福島の廃炉という社会的事業も担っている。また、安全保障にかかわる技術開発にも従事しており、これは一企業と大株主だけの問題ではなく、日本の安全保障と福島の復興という日本国民全体の問題であることを示しているのではないだろうか。

 そうすると、仮に非上場化を行うにしても、東芝の経営が日本人のコントロールから離れるようなストーリーを望んでいるようには見えない。むしろ、日本全体で東芝の長期的で持続的な成長を支えていくべきであろう。

 また、筆者が島田社長を推すのは、2011年頃にソニーの社長として平井一夫氏を推していたのと同じ理由である。当時、平井氏についても「ソニーの再建は無理だ」といった怪文書が社内で流れ、それを報じるメディアが出たりして、強い逆風が吹いていた。