JA全農の役員の地位を乱用してインサイダー取引を行ったJAならけんの中出篤伸会長が、農協職員を対象に行った説明会の音声データをダイヤモンド編集部は独自に入手した。インサイダー取引の責任を取って全農の役員は辞任したが、農協の会長は続投しようとしている中出氏が職員らに語ったのは、混乱を招いたことの謝罪より、むしろ自己保身のための「言い訳」だった。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文、動画編集 久保田剛史)
>>【インサイダー取引を認めて謝罪、それでも辞めないJAならけん会長の「呆れた保身術」】から読む
「トイレで証券会社に電話した。
会議やねん。購入しておいてよ」
「あっ(いま株式を売買すれば稼げる)と思ってトイレに行って、トイレで証券会社に電話した。『ちょっとこの後会議やねん。せやから(大手コンビニエンスストア、ファミリーマート株式を)購入しておいてよ』とこう言った」。
JA全農の役員の地位を乱用して自らが行ったインサイダー取引の現場を生々しく描写してみせたのは、JAならけん会長の中出篤伸氏だ。14日18時に農協内で開いた職員向けの説明会での一幕である。
中出氏は急きょ呼び出した職員百数十人を前に演台でマイクを持ち、13分にわたって自らの違法行為の経緯を説明した。
2020年当時全農の役員だった中出氏は、ある未公開情報を知る立場にあった。その情報は、全農がファミリーマートへ出資する前段階として、伊藤忠商事がファミリーマートに対してTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社化するプロセスを踏むというものだ。
中出氏はこの未公開情報を基に、TOB行使が公表される3時間半前にファミリーマート株式を350万円分買い付け、公表後に売却。この取引で120万円超の利益を得たのである。
ダイヤモンド編集部が今年6月8日、中出氏によるインサイダー取引を報じると、JAならけんには「コンプライアンスは大丈夫か」「会長は辞めないのか」といった問い合わせが相次いだという。
冒頭の説明会は、この不祥事の顛末(てんまつ)について中出氏が職員に謝罪するという名目で、当日に緊急招集されたものだった。
少なくない職員が、誠意ある謝罪と中出氏の辞意表明を期待していたことだろう。というのも、職員が中出氏の辞任を求める理由は、今回の違法行為のためだけではなかったからだ。
JAならけんでは、職員に共済(保険)事業の過大なノルマを課して自爆営業(職員がノルマを達成するために本来、必要のない保険などに本人や家族の名義で加入すること)を強いる不適切行為が横行している(自爆営業の詳細については、特集『JA自爆営業の闇 第2のかんぽ不正』の#3『JA共済「自爆営業」報告数1位JAならけんの「保険金詐欺」「不適切販売」の呆れた実態』参照)。良識ある職員は、トップ交代を契機に事業推進の在り方を正常化させるべきではないかと考えているのだ。
ところが、である。中出氏が語ったことは、職員の期待を裏切るものだった。次ページでは、“13分の演説”で語られた「驚愕(きょうがく)の言い訳」と「強気な続投宣言」の中身を余すことなく明らかにする。