「人的資本経営」のカギを握る「アルムナイ」――企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係を築いていくかは、人材の流動性がますます高まるこれからの時代においてとても重要だ。アルムナイ専用のクラウドシステムを提供するなど、アルムナイに関する専門家である鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)が、企業とビジネスパーソンの間に起こる「辞められ方」「辞め方」を語る。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
転職意思を告げたA氏に、上司がとった行動は…
昨年2021年、日本の就業人数の4.3%にあたる約288万人が転職をしました*1 。約23人に1人が転職している計算になるので、自分自身が転職をしていなくても、知人友人や会社の同僚が転職したという方は多いのではないでしょうか。会社を「辞めた側」だけでなく、社員に「辞められた側」の経営者や上司、そして、同僚や人事という立場を経験した人もいるでしょう。その時の経験を、みなさんはどのように表現するでしょうか? 今までは重要視されていなかった会社の「辞められ方」「辞め方」が注目されている理由を考えてみます。
*1 総務省「労働力調査」より
数年前、筆者の知人A氏が新卒で入社してから10年働いた大企業を退職して、同業界のベンチャー企業に転職することを決意しました。転職する前のA氏は、「私はこの会社の大ファンです」と公言し、常に会社のサービスを勧めてくる“自他共に認める、会社大好き人間”でした。
A氏が退職する時に携わっていた富裕層向けの事業では、さまざまな商品やサービスをパッケージとして販売していて、富裕層向けのパッケージは全て高額な商品やサービスで構成されていました。一方で、通常のパッケージには高額な商品やサービスの一部を組み込んで販売することはありませんでした。1人のユーザーとして、もっと多くの若い人にも体験してもらいたい商品やサービスがあるものの、富裕層向けのパッケージでは手が届かないと考えたA氏は、通常のパッケージの一部に高額商品を組み込むことを社内提案しましたが通りませんでした。その頃、同じ想いを持ってそれを事業としているベンチャー企業に出合いました。そのベンチャー企業で、お金がまだあまりない若いお客さん向けに高額サービスを一部体験できるパッケージを提供し、将来的にそのお客さんの所得が上がった時に、前職となる今の会社に紹介できたら素晴らしいと考えました。
そうして転職することを決意したA氏は、会社や仕事が大好きであることと、そのうえで転職の決断に至った経緯を直属の上司に伝えました。退職することは受け入れてくれたものの、そこから上司の態度は大きく変わりました。転職先の会社をボロクソに言われたり、お客さんに転職のことを伝えるだけで「顧客の引き抜き行為だから訴える」と言われたり、「今の成果は会社の力で、お前の力は関係ない」と言われて、人事評価で最低点を付けられたりと、退職が決まってからのA氏の体験は耐え難いものでした。会社に迷惑をかけないためにと、転職の3カ月以上前に転職の意思を伝えたA氏は、この状況で数カ月も仕事を続けることとなり、最終的には体調を崩してしまいました。