ブラック企業対応、管理職の利用……「退職代行」に人事部はどう向き合っているか

企業における従業員の「退職」の意思を、従業員本人に代わって企業側に伝える「退職代行」。近年、その請負業者とサービスの利用者が増えている。「退職代行」の背景にある労働環境は? 企業の人事担当者はどのように「退職代行」の通知に向き合っているのか? 現在の問題点は何か?――退職希望者のさまざまな相談を受け、「退職代行」の豊富な経験を持つ弁護士の竹内瑞穂さん(第一東京弁護士会)に話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

ここ数年で、「退職代行」が広まった背景は何か?

 退職希望の従業員に代わって、第三者が企業側に退職の意思を伝える「退職代行」――近年、「働き方改革」やコロナ禍でのリモートワークの推進で、雇用の在り方や個人の働き方が見直されるなか、どのような背景で広まってきたのだろう。

竹内 昭和の時代には、「会社に逆らうなんて……」という声も少なからずありましたが、平成では「ブラック企業」という言葉が一般的になって、「会社の働かせ方に『ノー』と言ってもいい」という風潮が生まれました。とはいえ、ブラック企業の経営者や管理職に「退職します!」と告げてもなかなか辞められないこともあり、退職を希望する方に代わって企業側とやりとりする「退職代行」ができたのでしょう。労働問題を扱う私たちのような弁護士だけではなく、非弁退職代行業者や民間企業が「退職代行」のサービスを手がけ、それをメディアが報道したことも利用者が増えた要因と考えられます。たとえば、「(非弁退職代行業者への)数万円の出費で済むなら、嫌な上司の顔を見ずに辞めてしまおう」という考えの方たちに受け入れられていったのです。

 退職代行がない時代は、「バックレ」といった行動で、職場から無言で離れていく就労者*1 もいた(現在もいる)。従業員の安否や意思を企業側が把握できない「バックレ」は、辞める者にとっても懲戒解雇処分となるリスクがあり、次の就職先への影響も否定できない。第三者の手を借りても、就労者が企業側に「退職意思」を伝えることは重要だろう。

*1 本稿では「就業者」と同義

竹内 退職代行に対して、最初のうちは、テレビ・雑誌といったメディアには批判的な姿勢もあったのではないでしょうか。「退職することを自分自身で言わないなんて……」と。しかし、誰かに代行してもらわなければどうしようもない事情も報道されていくうちに、SNSやネット記事をはじめ、退職代行に対して肯定的な意見は増えていきました。まとめ的なサイトができたり、中立な情報が発信されたり……いまでは、従業員の退職を、退職代行の業者や弁護士から知らされたことのある企業も少なくないのではないでしょうか。実際、私が通知を行うと、「先週も1件、別の業者さんから通知が来ていた」という話をよく聞くようになりました。

 会社を辞めることを自分で伝えられない――その理由は、ブラック企業のように雇用側に問題がある場合と就労者の都合による場合がある。

竹内 辞める意思を従業員が会社に伝えられない原因が何なのか、現在の労働環境に問題があるのか……経営者や人事担当者はそのことを立ち止まって考える必要があるでしょう。

 会社側に非がないのに、キャリアアップや引っ越しを理由にして退職代行を利用し、退職を希望される方はいます。その一方で、仕事を辞めくないのに退職を決意し、退職代行を依頼する方もいます。大きい会社だと、企業全体の賃金や労働時間といった点に問題がなくても、直属の上司や同僚との関係性の悪化で辞職する人も少なくありません。

ブラック企業対応、管理職の利用……「退職代行」に人事部はどう向き合っているか

竹内瑞穂 (たけうち みずほ)

第一東京弁護士会所属

令和元年(2019年)、六本木法律事務所入所。退職代行(退職手続きの代理)、知的財産、医療過誤訴訟等の専門的分野の取扱を行えることを特徴として、分野を限定せずに幅広い弁護士活動をしている。退職代行業務との出合いは、学生の頃からの友人である小澤亜季子弁護士からの誘い。時代とともに「退職」の選択肢が身近になってきた一方で、退職はなるべくするべきではないという価値観も根強く持ち、退職代行には、退職を選択したい社員と退職せずに会社に留まってほしい会社の間の橋渡しをする役割があると考えている。コミック「さよならブラック企業」(少年画報社刊)の監修も務めている。

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