「経験学習」とは何か?新入社員が“仕事上の直接経験”で成長する方法

4月入社の新入社員が、それぞれの組織に配属されていく季節だ。人事部の手を離れ、各部門に飛び立った彼ら彼女たちをしっかり成長させていくために、人材育成の手法のひとつである「経験学習」を回していく組織も多いだろう。そこで改めて、「経験学習とは何か? 新人をはじめとしたビジネスパーソンが、経験学習を身につけるために教育担当者や管理職はどうするべきか?」を考えてみる。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

学んで成長できる人と、学べずに成長できない人

 新入社員が配属される季節、皆さんはこんな経験がないだろうか。

 優秀な大学を卒業し、明るく元気なAさんと、すこし地味な印象のBさんが同じ部署に配属されてきた。Aさんは新入社員研修の場で本領を発揮し、グループワークではリーダーを引き受け、グループ発表におけるパフォーマンスも素晴らしい、いわゆる“期待の新人”であった。一方、Bさんは、Aさんの陰に隠れるような目立たない存在で、新入社員研修の場でも、他の新入社員の意見を素直に傾聴しているものの、積極的な発言はあまりしないタイプだった。

 そんなAさんとBさんの3年後はどうなっているだろう。周囲の期待をあれだけ集めたAさんはいつの間にか鳴かず飛ばずで目立たない存在となり、おとなしいBさんが急速に力をつけて周囲の期待を集めるようになっている。皆さんの会社でもこんなことが起こっていないだろうか。AさんとBさんの差はどうしてできたのだろう。二人は同じ部署に配属され、同じような経験をしていたはずである。同じ経験をしても、そこから学んで成長できる人と、学べずに成長できない人では、何が違うのか。

 ロミンガー社*1 のマイケル・ロンバルドとロバート・アイチンガーの報告によれば、企業における人材の成長の7割は「仕事上の直接経験」、2割は「他者からのアドバイスや観察」、1割は「書籍や研修からの学び」によって決まり、人材が成長する上で、「仕事上の直接経験」は大きな影響を持っている。このことは、子どもが自転車に乗れるようになるための練習風景を思い浮かべると理解しやすい。親が子どもに自転車の乗り方について、ペダルの踏み方、ハンドルの操作の仕方をいくら詳しく説明しても、当然のことながら、子どもは自転車に乗れるようにはならない。最初は補助輪をつけて自転車に乗らせる。徐々に自転車に慣れてきたところで補助輪をそっとはずす。後ろから押してあげる必要もあるかもしれない。そして、時には派手に転んで膝小僧をすりむくこともあるだろう。そのうち、子どもが自転車に乗っていられる時間がだんだん長くなる。親は、その度に「○○ちゃん、カッコいい」と褒める。そんなことを続けているうちに、いつの間にか子どもは自転車に乗れるようになる。つまり、何かができるようになるには“直接経験”が最も影響するのである。

*1 米国の人事コンサルタント会社

 社会人は年間2000時間以上の仕事経験を積んでいる。そして、上述した事例のように、仕事経験が社会人として成長するための良質な教材だとすると、ここから効率的に学ぶ習慣を身につけることは、一生成長し続けるためのノウハウを身につけることになるのだ。では、同じ経験をしても、そこから学んで成長できる人と、学べずに成長できない人では、何が違うのか。その答えが「経験学習」である。

 1984年に、デービッド・コルブ*2 によって提唱された「経験学習理論」は、成人学習において最も影響力のある理論と言われており、そのルーツはアメリカの著名な教育哲学者ジョン・デューイにさかのぼることができる。コルブは経験学習を「具体的経験の変換を通じて、知識が創出されるプロセス」と定義した上で、「経験学習モデル」を提示している。コルブのモデルは、お互いに連動した「具体的経験」「内省的観察」「抽象的概念化」「積極的実験」の4つのステップから構成されているが、具体的には次のように説明することができる。

*2 デービッド・コルブ(David Allen Kolb)はアメリカの組織行動学者