「サラサーティコットン100」の
ネーミング秘話

 まずは商品のネーミングに注目してみたい。本書で小林会長は、商品開発で重視しているポイントとして「ネーミング、パッケージ、広告、販促」の四点を挙げ、すべての過程で「いかにお客さまにわかりやすく伝えるか」を第一に考えていると語っている。

 小林製薬の「わかりやすいネーミング」と聞いて真っ先に思い出したのが「アンメルツヨコヨコ」だ。前半の「アンメルツ」はわかりやすいとはいえないが、後半の「ヨコヨコ」は秀逸だ。容器の首が横を向いて塗りやすくしているから「ヨコヨコ」。誰が見ても由来がわかる。

 アンメルツヨコヨコという商品名には、社内で反対意見も出たそうだ。だが、小林会長には、「小林製薬らしいネーミングだ」という確信があり、それで通したという。「ヨコヨコ」は、どこかコミカルな響きで、かつ特徴と使い方をシンプルに伝えている。

 また、本書ではこんなエピソードも明かされている。女性用「おりもの専用シート」として1988年に国内で初めて発売された「サラサーティ」。そのシリーズの新商品として1995年に発売された「サラサーティコットン100」の商品名を決める会議でのことだ。

 サラサーティコットン100は、「究極のおりものシート」を目標とするプロジェクトで開発された。その結果でき上がったのは、当時、生理用ナプキンも含めて存在しなかったコットン100%素材のサラサーティだった。下着のような肌触りを実現した商品である。

 会議では、当初この製品に付けられた「サラサーティ・エクセレント」という名称の是非が議論された。そこで当時社長だった小林会長は、「何がエクセレントなのか?」とプロジェクト担当社員に尋ねた。

「ワンランク上であることを表現した」と答える社員に、小林会長は「それで、本当にお客さまはわかるのか? 製品のよさが伝わっていないのではないか」と問い詰めた。そして「コンセプトを考え抜いたのか!」とさらに追い込んだ。

 社長の指摘を受け、プロジェクトチームは再びコンセプトを練り直すとともに、ネーミングを再検討した。その一方で小林会長は、顧客からのアンケートはがきや、社内の女性によるモニター結果を分析し、「かぶれない」ことがこの製品最大の「わかりやすい」特徴だと気づいた。

「かぶれにくさ」と「高級感」をコンセプトに、品質面のテストと改良を重ねた結果、商品名は「サラサーティコットン100」という素材をストレートに伝える名称になった。

そして、そのパッケージには大きな字で「かぶれにくい」というコピーが印字された。ネーミングを考え直すことで、商品の特徴がより明確化され、品質向上にも結びついたのだ。

 商品の高級感を生むための戦略として、フランス語やイタリア語のおしゃれな商品名を付けている企業があるかもしれない。でも、それでは「わかりやすさ」を追求する小林製薬らしさとは異なる。