中出氏は、全農によるファミリーマートへの出資に関する未公開情報を基に同社株式を350万円分買い付け、120万円超の利益を得た中出氏は、全農によるファミリーマートへの出資に関する未公開情報を基に同社株式を350万円分買い付け、120万円超の利益を得た Photo by Takeshi Kubota

インサイダー取引を行ったJAならけんの中出篤伸会長が農協のトップを続投することが事実上、決まった。中出氏が留任するまでの舞台裏とJAグループのガバナンスの欠如を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

「インサイダー取引は問題だが
続投はやむを得ない」

 農協のガバナンス不全を如実に表す前代未聞の事態が起きた。インサイダー取引に手を染めたJAならけん会長の留任が決定的になったのだ。中出篤伸氏はJAグループで商社機能を担うJA全農の役員として得た未公開情報を基に不公正取引を行い、120万円の利益を得た。

 中出氏は、2020年に行った大手コンビニエンスストア、ファミリーマートの株式売買がインサイダー取引に当たると証券取引等監視委員会から今年3月に指摘を受け、4月に全農の役員を辞任した。しかしその後もJAならけんの会長に居座っており、6月25日の農協の総代会(株式会社の株主総会に相当)で辞意を表明するかどうかが注目されていた。

 総代会の当日、農協の出資者である組合員の代表者らから「辞任すべきだ」「どう責任を取るのか」といった意見が相次いだ。にもかかわらず、経営陣は「中出氏の進退は経営管理委員会(株式会社の取締役会)に一任する」と繰り返し、40分間の質疑応答を打ち切った。中出氏ら農協幹部は、現体制の続投のための「一番のヤマ場」と位置付けていた総代会を無事に切り抜けることができたのだ。

 中出氏の進退を一任された経営管理委員会は総代会終了後に会合を開くこともなく解散。本稿を執筆した6月27日午後6時時点で次の開催日すら決まっていない。

 経営管理委員会がこのような消極的な対応に終始しているのは、中出氏の“お友達”で構成されているからだ。同委員会は総代会の15日前に現体制の維持を全会一致で決議している。総代会で出た意見を踏まえて考えを改め、中出氏に辞任を求めるような人物は見当たらない。ある農協幹部は総代会後、「インサイダー取引は問題だが、中出氏がいま辞めれば経営に悪影響がある。続投はやむを得ない」と語った。

 経営管理委員会は14人で構成されているが、大半は農協や奈良県経済連、農協中央会の元役職員だ。中出氏は12年以上、農協のトップを務める間、自分に唯々諾々と従う経営管理委員を増やしてきた。「中出氏の意に沿わない職員は比較的若い管理職でも排除される」(JAならけん元役員)組織で役員まで上り詰めた人物に、物を言う人物がいるかどうかは推して知るべしだ。

 同委員会が今後、中出氏の減給など一定の処分を行うことはあるかもしれないが、中出氏が農協を牛耳る体制は続くだろう。

 では、中出氏は続投のために総代会などでどのような説明をしたのか。取材を進めると、それは常識では考えられない「言い訳」と言わざるを得ないものだった。