一つはリバースモーゲージで、自宅マンションを担保にお金を借りる方法だ。この返済方法は、主に死後の物件の売却で行われる。住み続けることができて、膨らんだ資産を有効活用することができるので良さそうだが、二の足を踏む理由がいくつかある。金利が3%と、住宅ローンと比較すると高いことや、借りられる金額も住宅ローンが残っていればその分だけ目減りし、その資産価値にも掛け目が入って大した金額にはならないことだ。それでも一つの選択肢として考えることができる。

 マンションに住みながら、キャッシュに換えるもう一つの方法は、セールス&リースバックという方法だ。一部の不動産事業者がやっているが、仕組みはこうだ。まず、住んでいる物件を不動産事業者に売却し、現金を得る。その次に、その事業者からその家を借り、家賃を払う。

 一見、理想的に見えるかもしれないが、実態は住んでいる人のためというより、不動産事業者の収益を生み出す仕組みの色彩が強い。問題になるのは、買い取り価格と家賃の設定だ。買い取り価格は相場より安く、家賃は高額なことが多い。

 ある例では、年間の家賃を買い取り価格で割ると、12%になる。8年住んだら、売却で得た金額とほぼ同額になる計算だ。住宅ローンが半分残っていたら、4年住んだら売却で得たキャッシュが枯渇することになる。

 冷静に考えたら、こんなことをするくらいなら、家を売却し、別の家を借りたほうがはるかに安上がりだ。しかし、「今の家に住み続けることができる」という殺し文句がそうした判断を鈍らせる。実態は自宅を使った高利貸しのようなもので、実質的に追い出しをしているのと同じだ。現金は欲しいが、自宅しか資産がない人に追い出しをかけるのが不動産事業と言われると、同じ業界にいる者として恥ずかしい。事業としてもうかればいいという資本の論理だけで語るには、あまりにもさもしいビジネスモデルになり下がっている。

 これに近い仕組みで、フランスでは「ビアジェ」という制度がある。高齢者が住宅を買い主に売却しながらもその住宅に住み続けることができ、売却の対価として買い主から亡くなるまで毎月一定額の金銭が支払われる、という契約である。生命保険や年金と同じ考え方で、資産額を平均余命で割り戻しているので、追い出しが行われることがないのが特徴だ。

 老後の安心のためには、亡くなるまで住み続けることができるというのがいいところだが、買い主にとってはいつ引き渡されるのか分からないのが問題になる。このため、稀少な不動産に取引が限定され、成約実績は数千件にすぎない。引き渡しまで長期間になると、資産価値が大きく変動するという可能性もある。