58歳の母が認知症に、仕事・子育て・介護に追われる娘を支えた「納得感」写真はイメージです Photo:PIXTA

仕事を続けながら介護や子育てをするワーキングケアラー、子育てをしながら介護をするダブルケアラーの人たちが研さんした技術は、ビジネスの現場でも生かせる。具体的なケースからその神髄を学んでいこう。第3回は、自身が20代の時に母親が認知症と診断され、仕事をしながら介護をするが、自身の妊娠が判明。出産・育児・仕事に追われながら、両親を支えたダブルケアラー、藤本さんの事例だ。(ライター・グラフィックデザイナー 旦木瑞穂)

退職金を使い込み通帳を紛失…
58歳の母親の行動に違和感

 静岡県出身の藤本弘美さん(仮名、40代)は、短大進学をきっかけに県外で一人暮らしを始めた。短大卒業後そのまま就職し1年がたった頃、父親に「母さんがおかしいから帰ってこい」と言われ、仕事を辞めて23歳のときに実家に戻り同居を始めた。

 当時、父親は62歳、母親は58歳だった。60歳で定年を迎え、再雇用を経て、家にいることが多くなっていた父親が、最初に母親の異変に気づいた。

 退職金が振り込まれている銀行の通帳がない。カードや印鑑も見つからない。家中探して、やっと通帳は見つかったが、退職金はほとんど残っていない。父親が「どこへやった?」「何に使った?」と聞いても、母親は言い訳をするばかり。

 部屋からは、怪しい機械のパンフレットや申込書、保険の契約書などが見つかり、どうやら必要のない機械や保険を複数契約してしまったようだ。

 母親が契約してしまった保険を解約しようにも、肝心の保険証書がない。父親は、何とか契約書から保険会社を割り出し、保険を解約。なくした銀行の通帳やカード類は、再発行の手続きをした。

 藤本さんが実家に戻った頃は、母親はまだ料理ができていた。しかし、藤本さんの地元での再就職が決まり、出勤し始めると、母親が作ってくれる弁当が、だんだんおかしくなっていった。