一人ひとりがクリエーターになることで、
世界そのものを変えることができる

 本連載で述べてきたように、物を使うこともまた、美意識を育てる行為であり、創造的な行為です。

 今までは単なる「消費」だったかもしれませんが、良い物を長く使うという意識を持てば、創造的な使い方へと変えることができます

 大量かつ粗悪に作られたプラスチックの器を買って、環境への負荷が高い大量のゴミを出し続けるのか。

 それとも長く大切にできる器を買って、時代を越えて使い続け、環境への負荷を減らしてゆくのか。物の「使い捨て」を繰り返すこれまでの悪習は、すべて一人ひとりの美意識の持ちようで、少しずつ変えてゆくことができます。

 ビジネスにせよ社会にせよ政治にせよ、「自分が動いたところで変わらない」という感覚がある人もいると思います。

 しかし想像してみてください。「労働者」や「消費者」と呼ばれているすべての人が、クリエーターになったらどうでしょうか。

 パンクミュージックがかつての社会の価値観を変容させたように、現代では工芸による創造性の革命が、世界へと波及しつつあります。

「新しいルネサンス」の時代には、一人ひとりがクリエーターになることで、世界そのものを変えることができます。

 ぜひ工芸の思考を実践し、すべてのビジネスパーソンが、創造性を発揮し、仕事に喜びを感じて欲しいと思っています。

 その結果として遠くない未来に、美意識によって生み出される、本当に豊かな社会が訪れることを願っています。

細尾真孝(Masataka Hosoo)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。