日本政府は外国人観光客の入国を6月10日から再開し、中国を含む98の国と地域からのツアー客の受け入れを開始した。しかし、中国人観光客は今のところ動き出す気配はない。2019年には959万人に達した中国人観光客は、コロナとともに“蒸発”したままとなっている。(ジャーナリスト 姫田小夏)
「海外旅行なんてあり得ない」
上海市では6月24日、市中の新型コロナウイルスの新規感染者がついにゼロとなった。「勝利宣言」が出された上海では、緊張状態はだいぶ緩和され、外食もできるようになった。何事にも機先を制する上海市民なので、中にはすでに“旅支度”を始めている人がいるかもしれない…そう思って上海の友人に聞いてみたら、「海外旅行なんてあり得ない」と一笑に付された。
機はまだ熟してはいないようだ。
日本のインバウンド市場が中国人観光客でにぎわいを見せるには、航空券の予約のしやすさ、割安な航空運賃、帰国時の隔離政策がカギとなる。これを左右するのは習指導部のゼロコロナ政策であることは言うまでもないが、依然厳しい規制が敷かれ、中国の国民は気軽に海外渡航できない状況にある。
たとえば、航空券の予約のしやすさにつながるのは航空機の座席数だが、これが潜在する需要に追いついていない。
というのも、2022年3月末、中国航空当局が中国国内の航空機について「各国1路線、週に1往復」に縮小させてしまったためだ。外国の航空会社についても同様に、中国との航空路線を1路線、週1往復に限定した。その後運行状況は毎月更新されつつも、日本航空の場合は北京便、上海便とも7、8月は運休状態にある。
こうした状況を反映してか、上海から日本への航空運賃は異常な値上がりとなっている。7月上旬の航空運賃を検索してみると、上海浦東国際空港から成田国際空港へは、中国の航空会社利用で、片道かつ香港経由・エコノミークラスという条件ですら8000元(約16万円)を超えていた。2019年まで中国の航空会社の上海直行便は5万円程度で往復ができていたから、かなり高額だ。
年間3回の訪日旅行が趣味だったという上海・浦東新区在住の陳佳楠さん(仮名)は「座席数が限られる中で航空券の価格が高騰しています。留学生やビジネスマンも海外渡航が困難となっている状況で、観光客が海外に出て行くなんて、とても考えられないです」と話す。