過去最悪の失業率。雇用不安は日本の大きな社会問題となり、大企業の正社員ですらリストラされる。もはやキレイごとを言ってメシが食える時代ではないのだが、それなのに一流企業の正社員の座を平気で捨てて、社会貢献という生き方を選ぶ人が増えている。

 これまでも、企業の論理や競争原理に疲れて“人に優しい”生き方へと確信的にキャリアダウンする人たちはいたが、最近はまったく逆。会社を辞めてアメリカの大学で学位を取得し、国連機関やNGOなどへの就職を目指したり、社会起業家になるという、キャリアアップ型の社会貢献シフトなのである。

 筆者がこのようなトレンドを最初に知ったのは、2年ほど前のこと。日本の社会起業家研究の第一人者である町田洋次先生のブログに、こんなコメントが寄せられているのを見た時だった。

MBAはもう古い!? 「社会貢献でキャリアアップしたい」ビジネスマンが大増殖 「現在MBA留学でアメリカに来ていますが、社会起業やフィランソロピーに関するビジネスパーソンの関心の高さには目を見張るものがあります。(中略)バリバリ現役のリーダーたちや、将来のリーダーの卵たちも、本気で(ビジネスと同じくらいの比重で)社会へのインパクトを考えている人たちが多いと思います。。。」
http://ameblo.jp/yymachida/entry-10058667752.html

 資本主義的金儲けのエッセンスを集中的に学ぶところ、それがアメリカのビジネススクールだと思っていたら、「社会起業家コース」が一番人気になっている。そんなレポートに筆者は衝撃を受けたのだが、気がついてみれば日本にもそんな志向性のビジネスマン、ビジネスウーマンが大増殖中である。

 今回は、世界でも日本でも主流となりつつある「社会貢献でキャリアアップ」、その実態をお伝えする。

コンサルのキャリアを捨て、
意義を感じられる仕事へ

 アラサー男性の矢島正さん(仮名)は東大を卒業後、外資系の大手コンサル会社に就職。企業戦略のコンサルタントとして、組織変革、業務プロセス変革などのプロジェクトを次々と担当。申し分のないキャリアを積み重ねていた。

 しかし、入社後3年で会社を辞め、アメリカの名門デューク大学の公共政策大学院で国際開発政策を学び修士号を取得。現在は日本に帰国し、政府系機関にて経済関係の研究に携わっている。

 もともと高校生の頃から、社会貢献、特に開発問題への貢献に対する漠然とした使命感を持っていた。その一方で、起業したり、医者になったりして金を稼いでイイ生活をする人生、あるいは、文学や美術や映画など、好きなことに携わって楽しく生きる人生、そういった「チャライ人生」への憧れもあったという。大学進学後も迷いは解消されず、そのまま大学を卒業。民間企業に就職をするものの、質量共にハードな仕事をこなしながら、仕事に対する疑問も沸き起こり、会社を辞めてしまう。

 「コンサルって、顧客のためと言いながら、結局は顧客同士の競争を煽って商売している部分があります。プロジェクト単位で見れば、顧客にソリューションを提供して、競争優位を生み出します。しかし、コンサルは同業他社を含めた他の企業にもサービスを提供しており、同時に競争力を持たせようとしている。私にはそういった『イタチごっこ』に大義名分を見つけられず、仕事を本気で好きになれなかった。好きになれないと、頑張っていけないし、頑張ることができなければ長く続けられる仕事ではない。結局、意義を感じられる仕事をするしか道はないと思ったんです。迷いはゼロとは言いませんが、覚悟は決まっています」