習近平が香港返還25周年で「余裕」見せたワケ、5年前との最大の変化とはPhoto:PIXTA

「北京化」した香港政治
出来レースと化した行政長官選挙

 6月30日15時10分、習近平国家主席(以下敬称略)が軍人歌手の彭麗媛夫人を伴い、香港西九龍駅に姿を現した。香港の中国返還25周年に際する一連のイベントに出席するためだ。駅のプラットフォームで出迎えたのは、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官と、夫で数学を専門にする林兆波博士である。

 この日は林鄭氏にとって、行政長官としての最後の勤務日。2021年3月、全国人民代表大会に出席するために上京した同氏は、習近平率いる共産党指導部に、次の行政長官選挙に立候補するつもりはない意思を伝え、了承を得ていた。

 表向きの理由としては「家庭を大切にしたい」を挙げたが、在任中に引き起こした混乱の始末、それに対する市民の反発を考慮すれば、「続投」はあり得ないというのが、本人、中央、市民たちの間の総意であったように思われる。

 19年6月、「逃亡犯条例」の改定案の提起を引き金に、大規模、長期にわたる反中・反共抗議デモが人口750万人の香港を覆った。自国の領土である香港の地が、「西側勢力」が中国を封じ込め、政権転覆するための“聖地”となることは絶対にあってはならない、これ以上の忍耐と容認はないと、習近平は判断。「国家安全維持法」の採択、選挙制度の見直しを強行した。

 これによって、香港で国家の主権や安全に脅威を与える行為や、その過程で「外国勢力」と結託したとみなされた香港市民、香港の内政に干渉したとみなされる外国人に対しては、同法違反で逮捕される制度的枠組みが完成した。同様に、行政長官(行政府の首長)選挙、立法会選挙(香港の議員選挙)でも、立候補者を募る入り口の段階で民主派や反対派を排除する仕組みができた。

 香港政治の「北京化」は、もはや既定路線、既成事実といえる。

 そんな中、今年5月8日、行政長官選挙が実施された。案の定、林鄭氏の立候補はなし。

 保安部(警察)出身で、一連の抗議デモを抑え込み、中央に忠誠を誓ってきた功労者である李家超(ジョン・リー)氏が当選した。唯一の立候補者で、対抗馬なし、各業界の代表から成る選挙委員から99%以上の票を獲得しての当選だった。

 昨年12月に開催された立法会選挙同様、今回の行政長官選挙も「出来レース」と化した。香港政治の舞台には、もはや民主派も、反対派もいない。そこにあるのは「北京化」という、香港、そして世界に突き付けられた新常態に他ならないのだ。

次ページでは、習近平が今回発表した談話と、5年前の20周年の談話を比較して見えてくる習近平の香港に対する姿勢の「変化」について考察します。