「中国人民はなぜ習近平に歯向かわないのか」を読み解く3つの視座
中国人民が習近平に反旗を翻さない理由と考えてみたい Photo:Getty Images/Andrea Verdelli

中国のエリートや中産階級は
なぜ自国の現状を問題視しないのか

 前回コラムにおいて、米国のトランプ政権が昨今の対中政策で試みているように見受けられる、中国共産党と中国人民の「切り裂き策」が成功する可能性は低いという結論を出した。その中で、人民の習近平共産党総書記(以下敬称略)への支持度合は高く、中国が米国との競争や対抗を強める状況下で、その度合がさらに上がっているとも指摘した。

 ここで一つ、議論や検証に値する現象が見いだせる。中国国内において依然として問題が山積しているにもかかわらず、なぜ人民たちは習近平や中国共産党に反旗を翻さないのかという点だ。言論の自由が前代未聞の次元で抑圧されているから批判を口にできない、米国が香港問題や経済関係において中国に対抗的な措置を取る中で、国内の不満が結果的に米国へ転嫁される、などいくつかの理由は挙げられよう。ただ疑問は残る。憲法で定められた規定や改革開放の趨勢に背く形で強化される言論の自由への抑圧に対して、人民はなぜ反抗しないのか。米中関係の構造的悪化の重大な原因の一つは、特に習近平政権が2期目に入って以来横行している、内政では抑圧的、外交では強硬的な政策に見いだせる。米国だけに責任があるわけでは決してない。では海外留学組を含めた、高等教育を受けてきたエリートや中産階級は、なぜ自国の問題点や責任の所在に目を向けようとしないのか。

 そこには、自由な言論、学問、教育空間を抑圧する一方で、建国以来、終始、紆余曲折を経ながら展開されてきたプロパガンダや「愛国教育」によって創造されたゆがんだナショナリズム、「百年恥辱」(century of humiliation)という民族意識によって不断に喚起される西側諸国、文明への対抗心や屈辱感が機能している。それは、中国共産党によって統治されてきた中華人民共和国の政治体制とイデオロギーによるところが大きい。

 ただそれだけではない。

「中国人民はなぜ習近平に歯向かわないのか」という問題を理解するためには、建国(今年で71年)、結党(今年で99年)を超越した、「中華文明」の在り方や「中華民族」の生きざまに関係する歴史、民族性、国情に着目する必要があると考えている。本稿では以下、(1)家父長制、(2)利害関係と権力構造、(3)経済的視座という3つの角度から、この問題をひもといていきたい。