2017年11月、当時のドナルド・トランプ米大統領はアジアを歴訪し、ベトナムで行った演説で「自由で開かれたインド太平洋」と言明した。世界で最も人口の多い地域を表現するのに指導者らが使う言葉の変化がここに表れていた。トランプ氏は実のところ、安倍晋三元首相の言葉を借りていたのだった。戦後日本で最も長く首相を務めた安倍氏は8日、暗殺された。安倍氏独自の地政学的ビジョンとそれを表現するのに使われた言葉は、アジアを越えて広く支持されてきた。トランプ前政権のホワイトハウスで、安倍氏ほど歓迎された同盟国の指導者はいなかった。ゴルフ好きの2人は友情を築き、それによって米国の太平洋地域における協調に極めて重要な安定をもたらした。当時、中国の軍国主義による脅威が高まる一方、米国は孤立主義へ傾く誘惑にたびたび駆られていた。筆者の記憶では、トランプ氏は他のどの指導者よりも安倍氏と話していた。言葉が壁になることはなかった。安倍氏お気に入りの通訳だった高尾直氏が、安倍氏のアップビートなスタッカートを豊かな英語に表現してくれたからだ。ゴルフカートの後ろに張り付いてでもだ。