ある種の固定観念が問題の本質を捉え間違えたり、本当の課題を見えにくくしたりする「罠」といってもいいだろう。

元自衛官だったことを
銃撃能力と結び付ける無理

 山上容疑者も奈良県随一とされた高校の優等生で応援団長を務めて人望もあったようだが、卒業後は家庭の都合からか大学には進学せず、専門学校に入った。

 2年間専門学校で学んだ後、2003年から2005年まで3年間は任期制自衛官として海上自衛隊に勤めた。

 任期制自衛官というのは、3カ月の基礎訓練後、階級が最下位の2等海士(2等水兵)となり、3年後本人が希望し、選考に通ればさらに2年間継続任用される。

 これに対して、防衛大学校や一般大学出身者は入隊すると菅長(下士官の最上位)に任じられ、1年後には3尉(少尉)の士官となる。

 中学、高校で優等生だった山上容疑者にとっては、鬱屈した思いを抱くことがあったのではないか。継続任用されずに除隊したのは嫌気が差したか、協調性に欠けると見られたのかもしれない。

 今回の事件では、山上容疑者が短期ながら海上自衛隊にいたことで、射撃や拳銃製作の知識、経験を得たかのように報じられている。

 だが2等水兵は、小銃射撃については、基礎教育で一応習う程度だ。彼は護衛艦「まつゆき」の砲雷科に属したが、扱うのは口径76ミリの艦砲や対空、対艦、対潜水艦ミサイルで、拳銃とはほとんど無縁だ。

 約17年も前に海上自衛隊にいたことを今回の銃撃事件に結び付けるのは無理がある。これも固定観念からの見方だ。

あまりに短絡的な動機
旧統一教会幹部と同一視

 山上容疑者は取り調べに対し、建設業者だった父が亡くなった後、母が韓国に本部があるキリスト教の亜流の統一教会(現在は「世界平和統一家庭連合」)に入信し、多額の寄付をし、家も売却するなど家庭が崩壊したことを恨んで、その宗教団体の幹部を成敗しようとして爆弾や拳銃を作った、と語っているという。

 だが宗教団体の幹部を殺害するのは難しいと判断し、昨年9月、世界平和統一家庭連合の集会で約5分間のリモート演説をして、その幹部を称賛した安倍元首相を狙ったと動機を語っているという。