5126回もの失敗を受け入れるダイソンの姿勢に、デザインドリブンの経営とは何かを学ぶ――『インベンション 僕は未来を創意する』Purino/Shutterstock

紙パックのない掃除機や、羽根のない扇風機など、誰もが「こんなの見たことない!」と驚く革新的な商品を世に送り出してきたダイソン。「当たり前」と見逃してしまいがちな不便や不満を掘り起こし、創意工夫と技術力で課題を解決してしまう――。この卓越した創造力はどのように生まれたのでしょうか。今回は、デザイン経営のお手本として知られるダイソンの創業者であり、エンジニアでもあるジェームズ・ダイソンの言葉に耳を傾けます。

革新的な掃除機はいかにして生まれたか

 ダイソン 吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機――。

 静かな調子なのに、一度聞くと忘れられないナレーション。ダイソンが発売したサイクロン式掃除機のCMの衝撃は、掃除にまったく興味がない私の脳裏にもしっかり刻まれています(商品としては、人間に代わって掃除してくれるロボット掃除機の方がそそられましたが……)。

 ダイソンといえば「デザイン経営」で名前が挙がる企業の筆頭といえます。創業者であり、サイクロン式掃除機の発明者でもあるジェームズ・ダイソンの自伝が出版されたと聞き、手に取ってみました。生い立ちから、学生時代、起業、商品開発、そして農業や教育に乗り出すまで……。本書で余すことなく語られるジェームズの半生は、全てがデザイン経営につながっているように思いました。

 英国の美術学校やロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で美術やデザインを学んだことはもちろん、幼い頃に、大工仕事が得意だった父親からモノづくりの楽しさを学んだこと。そして、8歳で父親をがんで亡くしてからは、母親に家事をみっちり仕込まれたこともあって、家事に潜む課題に気付き、解決策を粘り強く考える力が育まれたのではないでしょうか。