古装束の皇居護衛官に担がれる葱華輦(東京・新宿御苑)1989年1月7日の昭和天皇崩御の後、2月24日に「大喪の礼」が東京・新宿御苑において、国事行為たる儀式として行われ、世界164カ国の代表が参列した Photo:AFP=JIJI

安倍元首相の国葬に対して、国内では是非が問われている。国葬は外交上、どんな意味があるのか。世界96カ国を訪ねた元外交官が解説する。(著述家 山中俊之)

安倍元首相の国葬、外交上はプラス
「弔問外交」は時代を映す舞台

 安倍晋三元首相が、選挙演説中の白昼に襲撃され死亡した事件は、日本だけでなく海外にも大きな衝撃を与えた。米New York Timesも英Economistも特集記事を掲載するほどだ。

 当然ながら、いかなる理由があっても殺人行為は正当化されるべきではない。筆者も奈良市の襲撃現場に足を運び、元首相の死を悼んだ国民の一人だ。安倍氏のご冥福を心よりお祈りしたい。

 9月27日には、首相経験者としては55年ぶりとなる国葬が開かれる予定だ。しかし、国葬については国民の間で意見が分かれている。

 筆者は、外交上はプラスの面が大きいと考える。国家元首やそれに相当する人物の国葬や関連儀式には、各国から多くの代表者が集まる貴重な機会だ。このような機会を利用して活発な外交が展開され、政治が動くことはままある。世界の歴史を形作る舞台がそこにある。

 1989年1月7日の昭和天皇崩御の後、2月24日に「大喪の礼」が東京・新宿御苑において、国事行為たる儀式として行われた。世界164カ国の代表が参列したその規模は、それまでの要人葬儀で最大級といわれたチトー・元ユーゴスラビア大統領の葬儀を上回るものだった。

 この時、参列国の間で活発な弔問外交が繰り広げられた。90年の中国とインドネシアの国交正常化や、93年以降イスラエル・パレスチナの中東和平に繋がったといわれている。

 ちなみに、大喪の礼に各国の代表が参列する中、オランダ王室関係者は不参加だった(外務大臣は参列)。第二次大戦時、日本軍が蘭領インドネシアでオランダ人捕虜を劣悪に扱った歴史的事実に対して抗議する意図があったからだ。当時のオランダでは「大喪の礼に使節を送るな」とデモまで起きている。

 しかし、その後は国民感情が改善したこともあって、2019年(令和元年)の天皇陛下「即位の礼」ではオランダ国王が参列した。こうした事例からも、要人に関する儀式はその時代の外交を映す舞台といえる。