もう一つの見方は、「台湾を取り囲み、武力侵攻を想定した軍事演習を行うことで、中国の軍事能力の向上を米国に見せつける狙いがあった」というものだ。

 これまでの中国は、軍事演習の他にも、米国に対するサイバー攻撃など多岐にわたる作戦領域を展開してきた。その背景には、米国が武器売却や軍事演習を通じて、粛々と台湾との関係を強化してきたことへの強い不満があるという。

 今回もこうした不満が原因となり、軍事演習によって米国を挑発・威嚇しようとした可能性は大いにあるだろう。

ペロシ議長の訪台は
米中の歩み寄りを無に帰した

 しかし、「中国は米国とのこれ以上の緊張拡大を望んでいるわけではなく、それを慎重に避けている」という見方もある。

 また、ペロシ議長の訪台自体についても、各方面から厳しい批判がある。米ジョー・バイデン政権は対中強硬姿勢を強化しながらも、並行して中国との対話も進め、対中関係を安定させようとしてきた。

 特に、ウクライナ戦争勃発後は、欧米のロシアに対する経済制裁が、中国を含む国際経済に悪影響を与えつつある。その中で経済危機を避けるために、米中は対話の可能性を模索しつつあった。

 だが、ペロシ議長の訪台は、これらの米中両政府の努力を無に帰したかもしれない。たとえ前述の通り、中国がこれ以上の緊張拡大を望んでいなかったとしても、訪台を機に米中関係が明らかに悪い方向に向かうのは間違いない。

 また、台湾や日本にとっても、議長の訪台の意義を見いだすことは難しい。「結局、議長のレガシー(遺産)づくりでしかない」といった厳しい報道も出ている。“遺産”という表現が使われた理由は、米国で22年11月に行われる中間選挙で、民主党が厳しい戦いを強いられ、敗北によってペロシ議長が退任する可能性が考えられるからだ。

 しかし、不可解なペロシ議長の訪台と、中国からの反発が意味することが一つある。それは、もし今後の世界で「新冷戦」があるならば、その主戦場が「北東アジア」であることがはっきりしたことだ。

 逆にいえば、欧州には「新冷戦」など存在せず、その主戦場になり得ないことが明確になった。