原油価格に変化あり
ウクライナ危機前の水準まで下落

 ただ、物価の状況には少々変化が見られる。小麦などはすでにロシアのウクライナ侵攻前をかなり下回るところまで価格が下落していた。さらに、ここにきて原油相場も米国の原油指標WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で見て一時90ドル割れまで下落しており、侵攻直前の約92ドルを下回る場面もあった。

 商品市場では景気後退を価格に織り込み始めたということでもあるし、ロシアに対する経済制裁が有効に機能しなくなっていることの表れでもあるだろう。従って、必ずしも喜べない状況だが、インフレに頭打ち感が出てくる可能性はある。

 一方、エネルギーは欧州向けのガス供給量の操作を通じて、むしろロシア側の武器になっている。冬の需要期に向けてロシアが欧州向けのガス供給を絞って、エネルギー価格の上昇が再び起こる可能性は捨てきれない。現時点で「インフレの頭打ち」を決めつけるのは早計だろう。

 米国のCPIではサービス価格の影響が大きいが、労働市場の逼迫を通じた賃金の上昇でサービス価格の上昇に歯止めが掛からなくなっている。先般発表された7月の雇用統計(非農業部門雇用者数)は52.8万人増と市場の予想を大きく上回り、失業率は前月の3.6%から3.5%に低下した。

 FRBは物価と雇用の二つの目的を追う組織だが、雇用が堅調であることから物価抑制に集中しやすい状況になっている。

 今や金融政策のさじ加減が分からなくなってしまったように見えるFRBが賃金の上昇に歯止めをかけるためには、景気を悪化させるところまで金利を引き上げる必要がある。しかも一般に雇用は景気に対する遅行指標なので、金融引き締めが物価抑制に効果を上げるところまでの道のりは長い。

 先の図式でいうと、「逆・金融相場」の規模と期間は想定を上回る可能性がある。さらに、金融引き締めの終わりまでには「逆・業績相場」的な状況が現出することが予想される。

 典型的な循環のパターンと要因から見ると「株価下落はもう終わった」と安心できる状況ではないようにみえる。