令和版「所得倍増計画」をうたい、成長と分配の好循環を目指す岸田文雄首相。そのシンボルとして掲げるのは金融所得課税の強化だ。予想以上の不評を買って総選挙で封印し、来年度の税制改正も見送ったものの、3年間の自民党総裁任期中に決着をつける構えは崩していない。岸田首相がそれでも不人気政策にこだわる理由とは――。(イトモス研究所所長 小倉健一)
株式市場を襲った「岸田ショック」
原因は金融所得課税の強化
9月末の自民党総裁選で勝利し、10月4日に船出した「岸田丸」はいきなり株式市場の動揺を招いた。日経平均株価は、岸田政権の発足を挟んで10月6日まで8営業日連続で下落。これは2009年7月以来、約12年ぶりのことで、市場関係者は「岸田ショック」に不安を隠せなかった。
波乱の幕開けとなった理由は、岸田文雄首相の「増税プラン」にある。総裁選で掲げた政策集に「金融所得課税の見直しなど『1億円の壁』の打破」と明記。9月8日の記者会見では「税率のカーブが下がる『1億円の壁』は、成長の果実の分配や国民の一体感を取り戻すという点から考え直す必要があるのではないか」と強調し、金融所得課税を強化する考えを示したのだ。
金融所得課税とは、株式の配当金や譲渡益といった金融所得にかかる税を指す。一律20%になっている税率を岸田首相は引き上げるというのだ。全国紙経済部デスクが補足する。
「金融所得課税の見直し論自体は古くて新しい議論です。所得税の負担率は所得1億円がピークで、それを超える超富裕層などでは低下しています。給与所得は4000万円以上に最高税率55%(所得税+個人住民税〈一律10%〉)が適用されますが、金融所得課税は一律20%となっているためです」
「所得に占める金融所得の割合が多ければ負担率が低下する『1億円の壁』が存在し、富裕層優遇との批判から見直すべきだとの声が政府・自民党内であったのは事実です」
安倍政権で敬遠され続けた
金融所得課税の強化
確かに、先の自民党総裁選に出馬した高市早苗政調会長や河野太郎広報本部長も金融所得課税の見直しには前向きな考えを示してきた。戦後最長の財務相として10月に退任した麻生太郎副総裁も「財務省として検討していたのは事実」と述べたことがある。
だが、民主党政権下で進んだ過度な円高・株安を是正するために起動したのがアベノミクスだ。デフレ脱却を目指す中で、マーケットに冷や水を浴びせかねない金融所得課税の強化は、歴代最長となる7年8カ月続いた第2次安倍政権下で敬遠され続けた。当時の安倍晋三首相は「市場への影響も含め、慎重かつ丁寧な検討が必要だ」と述べており、せっかくの株高を手放したくなかった心境がうかがえる。
総裁選でアベノミクスの継承を掲げた高市氏も「株式市場にダメージが及ぶことになれば、年金の運用にも影響が出る」として、衆議院選挙の公約に金融所得課税の強化を盛り込むことはしなかった。
では、なぜ岸田氏は金融所得課税に触手を伸ばすのか。