こうして始まったのが海外向けYouTubeチャンネル「Kumamon Global Official」。ここでは、外国の視聴者の目線や嗜好に合わせて企画・編集されたくまモンの自己紹介動画や縄跳びにチャレンジする動画などが配信されており、中には10万回以上の再生数を記録しているものもある。

「海外でくまモン人気が一番ある中国においては、事情によりYouTubeが利用できないので、現地動画SNS『bilibili』で発信しています。2021年12月から中国での運用を始めたところ、開始1カ月半で10万フォロワーを達成しました。これは日本のご当地キャラとしては快挙であり、コロナ禍の新たなあり方を示せたのではないかと思います」

 このような人気は中国での現地調査とローカライズの賜物だという。

「新たな動画プロジェクトも広告代理店とタッグを組んで進めています。同社の中国現地法人にはくまモン専門チームがあり、当地の流行や文化をリサーチしていただいています。そして、それに即した企画を熊本にいる我々も一緒に考えています。面白いかどうか、現地の人に刺さるか、刺さらないか、などは一公務員であり、日本にいる我々にはわからない部分もありますから、いろいろな意見を聞くようにしています。現状では、現地で流行しているダンスや習字で漢字を書くなど中国の方に親しんでもらえるようなカルチャーと、くまモンらしいちゃめっ気を組み合わせた内容が多いですね」

 海外は広告代理店による展開とはいえ、現地に専門チームがあるとは驚きだ。国内の案件も含めると、決して小さくない規模のプロジェクトだが、意外なことに熊本県庁のくまモンを運営するチームは10人。グローバルも手にする事業の割には少数だ。しかし、その一方で柔軟な取り組みができる環境が整えられているという。

「熊本県庁の職員は4000人ほどいますが、くまモングループは10人。正直、この人数でプロジェクトが回っているのが奇跡なくらいです(笑)。ただ、蒲島知事のモットーである『皿を割れ』、つまり、リスクを恐れずにチャレンジしようという言葉の通り、くまモン誕生から今まで、自由な取り組みやトライアンドエラーができる環境にあります。そのため、いい意味で役所らしくない活動がみなさんに受けているのかなと思います。くまモンは行政キャラクターということで企業色やメッセージ性が強くなく、様々な商品にも使いやすい。また、熊本県のPRを行っていただく代わりに、イベントの出演料は一切いただいておりません。そのため、安心して企業やファンに受け入れられているのだと思います。また、くまモンはその姿を見ているだけで、ほっこりした気分にさせてくれます。経済効果だけではなく、癒やしや安心感も与えられる存在として、くまモンのことはもっと世界の人に知ってほしいですね」

 2021年までの11年間でくまモン関連商品の売り上げは1兆円を超え、蒲島知事は次なる目標を2兆円と宣言した。しかし、このような経済効果にとどまらず、くまモンは、癒やし効果など数値化できない影響も与え、世界から愛されるキャラクターになっていくに違いない。