「最初は熊本のPRといった目的を隠し、くまモンをサプライズ的に神出鬼没させることで話題作りを狙いました。案の定『あの黒いクマみたいな謎のキャラはなんなんや?』と大阪の方々の興味を引くことに成功しました。また当時、行政ではあまり利用されなかったTwitterのアカウントも開設し、SNS上でも拡散を図ったんです。さらに、32種類あるくまモンの名刺を1万枚配ったり、蒲島郁夫熊本県知事とタレントのスザンヌさんと吉本新喜劇に出演したりしましたね。このころはまさか海外まで行くとは思ってもいませんでしたが」

 このようにそれまでのPR方法にとらわれない活動を通し、くまモンは全国区の存在になっていった。

台湾や香港では
億単位の経済効果

 くまモンの海外進出の契機となったのは2012年。この頃にはすでにアジア各国で、感度の高いマニアたちの注目を集めるようになっていたという。

「2012年に、上海に『熊本上海事務所』を開設しましたが、これでかなりくまモンの中国での露出が増えました。中国の方はもともとキャラクター好きという傾向があり、またパンダをはじめとするクマという生き物への親しみもある国民性。さらに、くまモンのちゃめっ気あるキャラクター設定やシンプルなデザインが海外ファンにも受けたのだと思います。そうしたことから2012年以前から一部で注目を集めていたくまモンですが、ゆるキャラグランプリ獲得と事務所開設によって、一層人気が出た印象です」

 その後、海外でくまモン需要が高まり、県内からのくまモン関連商品の輸出の要望が高まっていく。このような状況を受け、熊本県は2014年6月からくまモンを使った食品や商品の海外販売を解禁することを決めた。

 それ以前は香港と台湾の一部百貨店などに限られていたが、これにより順次、くまモンの商標登録が行われ、この2つの国・地域以外にも中国、韓国、シンガポール、タイ、米国、EUなどで販売できるように体制が整えられていった。

「くまモン商品の販売やイベントを行う際は、観光地や県産品など熊本県のことも一緒にPRしてもらうという条件で許可を出していました。2014年には台湾のセブンイレブン5000店舗でくまモンコラボが実施され、県内商品の販売や観光地の写真カードなどノベルティグッズの製造・配布も行っていただきました。その際の経済効果は約4億8000万円を記録しています。香港のサークルK300店舗でも同様のコラボを行い、3億4000万円の経済効果がありました。他にもタイやシンガポールでも同じような施策を行なっています」

 驚くべきことは、これらはすべて、くまモン人気によって先方からのオファーで実現しているということだ。「我々は当該コラボに一銭もかけていない」と松川氏は言う。それでいて億単位の経済効果をたたき出しているのだから、くまモン効果は恐るべしだ。