富士山の北西に広がる青木原樹海は、およそ約30平方km。多くの自殺者が「死に場所」に選ぶスポットとして、日本国内だけでなく、海外においても知られている。地元自治体としてはうれしいはずもなく、自殺志願者に声をかけて思いとどまらせる「ゲートキーパー」を養成し、見回りを実施している。毎年2万人ほどがみずから命を絶つ日本にあって、「最後の砦」を務める彼らに、現場の話を聞いた。本稿は波名城翔『自殺者を減らす! ゲートキーパーとしての生き方』(新評論)の一部を抜粋・編集したものです。
青木ヶ原樹海の「志願者」を
水際でキャッチする監視員
なぜ、青木ヶ原樹海に自殺志願者が多く集まるのか。よく言われている理由は、松本清張が書いた『波の塔』と考えられる。
『波の塔』では、主人公の頼子が不倫の末、死に場所とした選んだところとして樹海が記載されている。そして、1974年4月25日付の「毎日新聞」の記事には、「『波の塔』まくらに樹海で若い女性が自殺」という見出しの記事が掲載されている。
また、1978年6月5日付の「朝日新聞」では、「月曜ルポ 魔の樹海に泣く地元」という見出しの記事が掲載され、文中には次のような記載があった。
「昭和35年、松本清張氏の推理小説『波の塔』があらわれて以来、自殺者が増えたという富士山ろくの青木ヶ原樹海」
このように、『波の塔』が青木ヶ原樹海の自殺者を増加させたと関連付けていた。
山梨県の富士河口湖町と鳴沢村が行っている「青木ヶ原ふれあい声かけ事業」の2020年度の事業予算は2064万4000円で、具体的な取り組みとして以下のことが記載されている。
毎日、概ね9時~17時の間、本事業専任の会計年度任用職員が二人一組×二組での巡回によって、青木ヶ原樹海の来訪者の見守りを行う。服装や持ち物、雰囲気等から自殺企図の可能性があると判断した場合には、声をかけ、聞き取りを行う。
聞き取りの中で自殺の意思が確認できた場合には警察に通報し、保護してもらう。
周辺の売店等からも自殺企図の疑いがある者を発見した場合には、情報提供をいただいており、同様に声かけ等の対応を行う。
両町村における成果は、2012年度~2019年度までに、2350名に「声かけ」を行って525人が保護されている。ちなみに、2020年度では、両町村で346名に「声かけ」を行っており、48名が保護されていた。
私は、この資料を見たのちに調整を行い、担当者と会う段取りを付けた。