根深く残る「1on1では業務の話はしてはいけない」という大誤解
――1on1がうまくいかない理由は、たとえばどのようなことなのでしょうか?
株式会社KAKEAI代表取締役社長兼CEO。筑波大学卒業後、2002年に株式会社リクルート入社。商品企画、グループ全体の新規事業開発部門の戦略スタッフなどを経て、株式会社電通とのJVにおける経営企画室長。その後、株式会社リクルートホールディングス人事部マネジャー。人事では「ミドルマネジメント層のメンバーマネジメント改善施策」や「Will,Can,Must・人材開発委員会・考課・配置等のデジタル化」を担当。2015年リクルート退職後、スタートアップ数社での役員を経て2018年4月に株式会社KAKEAIを創業。
由井 1on1の進め方以前に、部下と向き合って、しっかり踏み込んで話をするという機会がなかった企業が多い、ということがあります。そんな関係性のベースのところをしっかり見つめることなしに、無理やり定期的にコミュニケーションを取るということを始めるので、いろんな問題が起きることになります。
本田 いい関係性ができていないなかで、いざ「1on1をやりましょう」と言って席に座っても、それはキツいですよね。
由井 いい関係性をつくる、ということを1on1の最初の目的にしてスタートしてほしいですね。多くの企業で、想像以上に上司は部下のことを知らないですし、「何がやりたいのか?」というWILLを聞くような会話を部下としたことがない、という上司がほとんどです。マネジャーを対象にした1on1研修では、「部下と1対1で何を話せばいいんですか?」と、よく質問されます。「1on1を月に1回やっていると、マンネリでネタがなくなります」なんていう人も少なくない。誤解してはいけないのは、「1on1は日常の仕事の話をする場ではなくて、キャリアの話とか、プライベートの話をする場だ」という点で、そう思い込んでいる人たちが一部にいます。上司と部下との共通のテーマは一緒にやっている仕事ですから、その話になるのは当たり前です。
本田 1on1では業務の話はしてはいけない、と会社として決めているところもあります。
由井 ありますね。これは5年前ぐらいの話ですが、「週1回、キャリアの話をしようと決めてやっているが、うまくいかない」という企業もありました。それはそうですよね。そのときに取り組んでいる仕事のことは、上司と部下との間で当然出てくる話題です。もちろん、進行管理ばかり話題になるのは1on1にはふさわしくなく、それは1on1ではない日常の時間でやるべきです。1on1では、そういう題材を通じて部下が「どう考えているのか」とか、「何をやりたいのか」というふうに、次の一歩につながるようなコミュニケーションを取ってください、という話をよくするのですけど、何割かの人はピンとこないようです。
「うまくいく1on1」と「うまくいかない1on1」を分けるものは何か?
本田 「うまくいく1on1」と「うまくいかない1on1」を分けるものは何かというと、上司側がどういう対応を部下に期待されているのかがつかめているかどうかだと思います。Kakeaiは、1on1で部下が話したいトピックと同時に、「話を聞いてほしい」「アドバイスが欲しい」「意見が聞きたい」などの期待する対応を入力し、上司と共有します。部下としては話を聞いてほしい場合もあるけれど、意見を聞きたいときもある。アドバイスが欲しいときもあれば、そうではなく一緒に考えてほしいというときもある。1on1の場について、ただ「話を聞けばいい」と考えていると、すれちがう可能性があります。そうなると、あの上司と1on1をやっても全然自分のための時間にならない、と失望させることになります。
由井 そこはとても共感できるところです。1on1の場というのは、もちろんコーチングのスキルなどは生かせるわけですが、それだけでは無理で、状況に合わせながら関わり方を考える必要があります。おっしゃるように、1on1の目的について「部下の話をただ聞くこと」とする理解が間違っているのだと思います。1on1はコミュニケーションの改善施策というより、部下育成をともなう目標達成のためのマネジメントの手法である、と捉える必要があります。