“1on1を実りある場にするには?”組織風土を変えるために必要なのは、マネジャー同士の「ヨコ」のつながり――1on1先進企業に学ぶ(3)リクルート

コロナ禍が明けようとしている今、ビジネスが加速し、上司・部下ともに多忙を極めている――。そんな会社も徐々に増えているのではないだろうか。リクルートHRエージェントDivision首都圏統括部でも、1on1は実施されているものの、繁忙のなか「指示命令」「進捗確認」の場になりがちだったといいます。かつて、リモート環境で不足した上司・部下間の関わりを1on1で回復させた中島耕平統括部長が、この新しい現実を前にいち早く適応するために打った手と、その成果を、『部下が自ら成長し、チームが回り出す1on1戦術』の著者である人材・組織開発コンサルタントの由井俊哉氏が検証した。(構成/間杉俊彦)

相互フィードバックを生み出した「57on1」という成功事例

「エリア統括部では、とてもうまくいきました。いわゆるグループダイナミクスによって、1人のアウトプットがチームをどんどん変えていく瞬間を目の当たりにして、これはすごいな、と感じたものです」

 中島耕平さんは、かつての成功について、こう振り返ります。

 中島さんが主導し、エリア統括部を活性化した1on1の導入事例については、書籍『部下が自ら成長し、チームが回り出す1on1戦術』でも紹介しました。

 この事例のポイントは、次のようなものです。エリア統括部ではもともと1on1を実践していたのですが、コロナ禍によって上司と部下とのコミュニケーションが滞りがちになり、メンバーのモチベーションの維持に苦労しました。そこで、再び「1on1を磨き込む」ことを決め、マネジャー以上の組織長57名を対象に5回にわたる研修を実施し、コミュニケーションについての学び直しからスタートしました。

 決定打になったのは、マネジャー同士のヨコのつながりをつくり出したことです。それまでもマネジメントは個人に委ねられがちだったことに加えて、コロナによるリモートワークの定着によって同僚への相談機会がなくなり、コミュニケーションが完全にタテの単線になってしまいました。そこで取り入れたのが、1on1での実践をTeamsチャットに投稿しあう、という取り組みです。最初からみんなが積極的だったわけではありませんが、部長が参加し、自身の失敗談を書き込むなど率先する姿勢を見せたことから、多くの人が次々に反応するようになりました。誰かが1on1を行うなかで浮かんだ疑問などを投げかけると、すぐにチャットで経験談やヒントがアップされる。つまり相互フィードバックが行われるようになったのです。

 1人が、あたかも57人のコーチングを受けることができるということで、同書では1on1を拡張した「57on1」と名付けて紹介しました。この仕組みを、リクルートHRエージェントDivision首都圏統括部でも導入しよう、中島さんはそう考えたのです。

「私たちの業務は、人材紹介事業の営業ですから、顧客接点を活性化することが重要。顧客の一番近いところにいるメンバーたちの情報が一番先に入るのが直属のマネジャーですから、1on1にマネジメントの起点を置きたい。その考えは首都圏統括部でも、まったく同じでした」

 中島さんは、自ら適任と考えた首都圏統括部の保井大八部長に1on1浸透のリーダーを任せ、2021年4月からコミュニケーションの活性化をスタートしました。

※集団力学。集団構造の中で発生する人々の思考や行動を指しており、ドイツの心理学者クルト・レヴィン(Kurt Zadek Lewin)により研究された。