上司と部下の「タテ」関係から、「ヨコ」「ナナメ」へと広がった対話がもたらした驚くべき成果――1on1先進企業に学ぶ(2)日清食品ホールディングス

社員の成長に欠かせない「内省」の習慣を、1on1を通じてつくることで、社員一人ひとりが成長を実感できる組織風土にすることを目指す日清食品ホールディングス。その実践は、コロナ禍でも着実に進んでいる。目標管理とワンセットになった1on1は、上司と部下というタテ関係を超え、ヨコ・ナナメの対話へと広がり、良質な「学習サイクル」をも生み出している。また、慶應義塾大学大学院との共同研究によって、1on1が従業員のエンゲージメントを高めることも実証されたという。前回に続き、『部下が自ら成長し、チームが回り出す1on1戦術』の著者である人材・組織開発コンサルタントの由井俊哉氏が、1on1活用の最前線に迫る。(構成/間杉俊彦)

メンバーの成長をマネジャー全体で考える「成長実感会議」

 日清食品ホールディングスの主要な事業会社である日清食品は、2016年から1on1ミーティングをスタートさせました。社員一人ひとりが、日々成長を実感できるような会社、すなわち「成長実感カンパニー」を目指す。そんなゴール・イメージを描き、そのための手段として取り入れたのが1on1でした。

 コロナ禍に直面してきたこの2年は、多くの企業がリモートワークを導入したことにより、職場のコミュニケーションに危機を感じることになりました。そのような状況下でも、日清食品は、対話を重ねつづけています。日清食品で始まった1on1は、日清食品グループの主要事業会社へと適用範囲を徐々に拡大しています。

「1on1の必要性が社内で認められた、ということだと思います」。人事部の池田貢介さんは、こう言います。「2021年度から適用会社を大幅に広げていますが、単に“月1回対話してください”とするのではなく、期初に個人別の目標設定を行い、その進捗を1on1で確認するという運用をしています」。

 同社の1on1の取り組みは、2020年11月に刊行された『1on1ミーティング』(本間浩輔、吉澤幸太著/ダイヤモンド社)でも紹介されましたが、その際のインタビューを通して私が興味深く感じたのは、半年に1回の「成長実感会議(人材レビュー会議)」です。

 これは、期初に設定した目標の結果を半年後に評価するための会議ですが、特徴的なのは上司がメンバー一人ひとりについて部門長にプレゼンテーションするところ。

「当人の、これからのキャリアも考えながら、次のチャレンジや、どうストレッチするかといったことを話し合います。部門にもよりますが、直属の上司だけでなく、ヨコに位置するマネジャーも“こういうところはよかった”“この点は課題なんじゃないか”などと意見を述べます。つまり、キャリア上のテーマも含めて、マネジャー全体でメンバーの一人ひとりの状況を共有しながら話し合う、ということです」(池田さん)

 この成長実感会議で上司が的確なプレゼンテーションをするためには、日頃の1on1の中できちんと部下と対話をする必要があります。日清食品ホールディングスの人事部では、そのためのバックアップとして、マネジャー向けに「傾聴する」「しっかり頷く」といった基本的な実践術を身につける1on1研修も繰り返し実施しています。

「自己成長にとって内省の機会は非常に大事。1on1を通じて部下の内省の機会をつくれるかどうかは、マネジャーの力量によると考えています」(池田さん)

 一方、同社では2021年に初めての試みとして「部下のための1on1研修」を実施しました。これは意義深いトライだと思います。1on1の場をよりよい時間にすることが、メンバー自身にとってプラスになる、と知ることは、1on1を成長に結びつけるために欠かせないからです。

 研修では、「事前に相談したいテーマを考えておく」「一歩踏み込んで本音を話す」「今後自分がどうしたいかを話す」という1on1に臨む3つの心構えを説き、理解を促したそうです。

 このように上司側と部下側の双方の学びによって、1on1はより実りある場になっていくのです。