2022年4~6月期の実質GDP(国内総生産)がコロナ前の19年10~12月期の水準を上回った。しかし、ピークは19年7~9月期であり、その水準を上回っていない。さらに、日本人の購買力を表す実質GDI(国内総所得)は、コロナ前を上回るどころか減少が続いている。(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)
日本のGDPの「コロナ前」
回復は大本営発表
8月15日に内閣府から公表された2022年4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率2.2%と市場予想の中心(同2.5%)をやや下回った。個人消費が想定ほど伸びなかったこともあるが、在庫投資の寄与度がマイナス0.4%ポイントと大きかったことが響いた。
供給制約の厳しさから、在庫取り崩しの動きが予想以上に進んだ実情が透けて見える。それでも「政府が行動制限をかけなければ民間の消費・投資(個人消費や設備投資)主導でプラス成長を維持できる」という姿が改めて確認されたことは強調したい。
下のグラフに示されるように、過去1年以上、日本のGDPはプラスとマイナスを交互に行き来しているが、これは感染拡大に合わせた行動制限の設定と解除の動きと符合している。
21年、世界経済はパンデミック直後のペントアップディマンド(繰り越し需要)に沸き、鋭角的な上昇を果たしているので、日本の成長軌道は異様と言える。
元々の地力(潜在成長率)はどうあれ、奈落の底を経験した20年の翌年に当たる21年の反動はどの国も享受する立場にあった。しかし、日本は民意の後押しもあって「経済より命」路線の下でこれを自ら放棄してきた。世の中が望んだ低成長である。
今回の結果を受けて、ヘッドラインでは大々的にGDP水準が「コロナ前」を回復したことが取りざたされている。しかし、この解釈はかなりミスリーディングである。
実は、「コロナ前」は上回っていても、コロナ前のピークはいまだ上回っていない。それどころか、日本人の購買力は低下を続けている。次ページからはその訳をひもといてゆく。