スマホが使いこなせないために
バスに乗れない、銀行で倒れる高齢者たち

 上海では今年3月末から約2カ月にわたり、ロックダウンが実施された。その間、必要な情報を集めるにも、デリバリーの食材を入手するにも、スマホ活用が必須だった。しかし、この流れについていけず、餓死寸前になった高齢者までいた。6月の初旬にロックダウンは解除されたが、再び、高齢者による心が痛む出来事があった。

 一人の白髪のおじいさんがバスに乗ろうとした。上海でバスに乗るには、発車前にバス車内に設置された識別機で、健康アプリを開いて認証する必要がある。ところが、おじいさんはアプリを開くことができない。もたもたしている間に、数分たってしまった。「ほかの乗客が待っているから、いったん降りて、アプリを開いてから次のバスに乗ったら?」と運転手さんに言われた。仕方なく、おじいさんは寂しそうにバスを降りるしかなかった。

 また、こんな話もある。90歳のおばあさんが、自分の誕生日の日に、自宅の近くにある麺類の量り売りの店に行った。長い麺は長寿を願う意味合いがあり、中国では誕生日の日に麺を食べる習慣があるのだ。しかし、スマホを持っていないために健康アプリの認証ができず、入店できなかった。近くにいた女性がおばあさんの代わりに麺を買ってあげようと思ったが、彼女のPCR検査結果が72時間を超えたため、それもかなわなかった。そのおばあちゃんは一人暮らしで、麺を食べて誕生日を祝うつもりだったと後で分かったのだ。

 こんなこともあった。上海では、年金の支給日が毎月10日前後となっている。ほとんどの高齢者はネット銀行を利用していないため、年金を引き落としたり、振り込まれているかを確認したりするために銀行へ行く。6月初旬、上海のロックダウンが解除されて外出が可能になった途端に、銀行の窓口に高齢者が殺到した。ところが、すべての銀行がサービス時間を短縮し、整理券を配って入店の制限をかけた。整理券をもらうために、何日間も十数回も銀行に足を運んだり、明け方の4時ごろに銀行の前に並んだりした高齢者も多かった。正午まで並んだために、熱中症になったり、疲れて倒れたりする人が続出した。

 こうした出来事がSNSで拡散され、大きな話題となった。