中国人の「祖国脱出」が静かに進む…人気移住先・日本を中国資本が席巻か昨年までの“帰国熱”から一転して“出国熱”に(著者撮影)

中国で“移住願望者”が増えている。祖国への不信感を募らせているのだ。振り返れば2020年以降、新型コロナウイルスの世界的感染拡大に伴い、「中国は世界一安全な国」だと、海外から多くの中国人が先を競って帰国したものだった。わずか1年で正反対の動きが始まった。(ジャーナリスト 姫田小夏)

中国から大挙して押し寄せるのか

 戦前から戦後にかけて上海で高い人気を博していた小説家に張愛玲(アイリーン・チャン)がいる。最近上海市民のSNSに、彼女がよく登場するようになった。知日派の上海の友人は「日本で言うなら林真理子さんのような人」だという。

 香港中文大学の資料によると、アイリーン・チャンは19歳の若さで名をはせ、1940年代初頭の上海で最も人気のある女性作家だったという。しかし、1949年に中華人民共和国が誕生すると、中国共産党下の空気に耐え切れず、1952年に香港に向けて脱出した。

 70年以上も昔の人気作家が再び注目される背景には、上海市民の中国からの脱出願望がある。今、上海市民は香港に逃げた女性作家に自分を重ねているのだ。脱出願望が高まる理由として、今年春に上海で断行された都市封鎖がある。上海のみならず中国という国に、このまま居続けるリスクを不安視する人もいる。

 上海に親戚を持つ都内在住の孔慶さん(仮名)は「今逃げないとヤバい、と脱出を考える人が増えました。移住への関心は間違いなく高まっています」と話す。「上海ロックダウン」の後遺症が決して軽微なものではないことがうかがえる。