老後は、「夫婦で旅行に行こう」「趣味に時間を費やそう」などと考えている人は多い。一方で、「そんな老後を送るためには、一体いくら必要なんだろう」と疑問に思っている人も少なくないはずだ。老後に必要となる金額がはっきりわからないがゆえに「とにかく貯蓄をしなければ」といった思考に陥ってしまっている人も多いのではないだろうか。『DIE WITH ZERO』の著者ビル・パーキンス氏は、「老後を待たずにお金を使おう」と呼び掛ける。では、資産を取り崩すべきタイミングとはいつなのか? 老後に残しておくべき金額はどの程度か? 本記事では、本書の内容をもとにそれらの疑問について解説する。(構成:神代裕子)

【「老後の資金」をどう使うか?】全米ベストセラーが教える「貯めたお金の減らし方」で知っておきたいことPhoto: Adobe Stock

死ぬまでに最低限必要な金額の算出方法

 本書は、人生を最大限楽しむためには、「お金」「時間」「健康」のバランスを考えながら、楽しいと思える経験にお金を使っていくことだ、と提言する。

 確かに、ただお金を貯めるだけの人生では、死ぬ間際になって後悔するのは想像に難くない。

 しかし、老後の資金への心配を抱えたままでは、なかなかお金を使うことはできない。どうすればいいのだろうか。

 そのためには、まず、人生を終えるまでに生活に困らないだけの額を算出することだ。

 家族構成や住んでいる場所によってその資金の額は変わる。しかし、誰にでも当てはまるのは(1年間の生活費)×(人生の残り年数)だ。

あなたの年間の生活費が1万2000ドルだとしよう(かなり低い額だが、あくまでも任意の数字として見なしてほしい)。あなたは今55歳で、80歳まで生きると想定していたとする。すると、あと25年生きることになり、この期間を生き延びるためのお金が必要になる。あと25年生きるために、55歳のあなたはどれくらいの金が必要になるか。まずは大まかな計算をしてみよう。(中略)

(1年間の生活費)×(人生の残り年数)=1万2000ドル×25=30万ドル(P.218-219)

 ここまでは、算出したことがある人もいるのではないだろうか。ただし、これは最終的な金額ではない。

 なぜなら、その資産は、ただ寝かせておくわけではなく、株式や債券に投資すれば毎年資産を生み出すことができるからだ。

 そう考えると、(1年間の生活費)×(人生の残り年数)よりも少ない額で暮らせることになる。

概念を説明するために物価上昇率以上の利息が常に3%であるという前提で計算を行う。では、実際に計算してみよう。55歳の時点で、資産が21万2000ドルあるとする。最初の1年間に生活費として1万2000ドルを使ったとすると、1年後に資産はいくら残るのか? 手元に残るのは20万ドルちょうどではなく、約20万6000ドルである。年初に1万2000ドルを差し引いたとすると、残りの20万ドルが3%の利息となる6000ドルを生み出すからだ。同じ支出(生活費)と収入(利息)を繰り返すなら、あなたは21万2000ドルで25年間生活できることになる。(P.219-220)

 利息のことを考慮して、本書では老後に最低限用意するべき資産を下記の式で計算することを勧めている。

死ぬまでに必要な金=(1年間の生活費)×(人生の残り年数)×0.7 (P.221)

 これは、あくまでも死ぬまで必要な最低限の額だ。そのため、この最低限の資金を貯めたら、その後は資産のピークを決める必要がある。

 ただし、「金額」を目標にするのではなく「時期」を目標にしなければならない。なぜなら、目標金額に達したら「もう少し貯めよう」と思い続けてしまうからだ。

 老後資金を必要以上に増やそうと働き続けると、お金より貴重な時間と健康を逃してしまう。大事なのは「いつまでに」「何をするか」であることをお忘れなく。

資産を崩すべきタイミングは、45歳から60歳

 そうは言っても、老後の生活を考えると、お金を使うのはためらわれるものだ。「もう少し貯めてから……」と思う気持ちになってしまうのは仕方がない。

 ただ、お金を使わないまま60代を迎えると、それらのお金を死ぬまでに使い切るのは格段に難しくなる。

 使い切れないお金を稼ぐために働き続けるのは、本末転倒ではないだろうか。

 そうならないためには、いつ頃から資産を取り崩し始めるべきかを考えておく必要がある。

「いつ頃から資産を取り崩し始めるべきか」は、健康状態と関連している。年齢の割に健康であれば高齢でも身体的、精神的な活動を楽しめる。

 ただ、年齢の割に健康状態が良くないのであれば、早めに楽しみのためにお金を使わなければならない。そのシミュレーションをした結果は次のようなものだ。

人生を最適化するよう金を使う場合、大半の人は45~60歳のあいだに資産はピークに達する。この範囲から外れると、人生の充実度を最大限に高めるのは難しくなる。つまり、経験のために金を十分使い切れなかったということになる。(P.227-228)

 おそらく、想像していた時期よりずっと早い年齢ではないだろうか。しかし、年を取れば取るほど支出は減るし、したいことも減ってくる。

 そして何より、思うように体が動かなくなる。そう考えると、「45歳ごろから真剣に自分が本当にしたいことを考え、動き始めなければならない」というこの主張は、決して早過ぎるものではないのだろう。

お金の使い時を逃さない

 人生を楽しむのは老後ではない。

「いつかしたい」と思っている経験を先延ばしにしているうちに、あっという間に年をとってしまうのだ。

 年を取れば取るほど、お金を使う機会は無くなっていく。にもかかわらず、「老後のため」といつまでも貯蓄に注力していたら、いつまで経っても人生を楽しむ日は訪れない。

 人生を最大限に充実させ、たった一度の人生を価値あるものにするためには、お金の「使い時」と「使い方」を真剣に考えることだ。

「いい人生だった」と思える思い出を、たくさんつくるために。