8月末のジャクソンホール会議でFRB(米連邦準備制度理事会)もECB(欧州中央銀行)も、インフレ抑制に向けて景気後退覚悟で金融引き締めの決意を表明した。しかし、市場は長らく続いたディスインフレ時代の“中央銀行プット”がいまだ忘れられないようだ。このままではしっぺ返しを食らいかねない。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
FRBもECBも急速に金融を引き締め
景気後退覚悟でインフレ抑制へ
「物価の安定を回復するには引き締め的な政策姿勢をしばらく維持する必要がある」「インフレ抑制が家計や企業にいくらかの痛みをもたらす」「我々の仕事が完了するまで金融引き締めをやり続けなくてはならない」
8月26日、主要国の中央銀行総裁が集まるジャクソンホール会議でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長はこう発言した。景気よりインフレ抑制を最優先し、利上げを継続する姿勢を示した形だ。
2021年の同会議で、パウエル議長は物価上昇が狭い品目にとどまっていることなどから「インフレは一時的」としていたのだから、まるで別人のようだ。21年は、会議開催時に公表されていた同年7月の消費者物価の前年同月比比上昇率は、5.4%だった。インフレ率の目標とする2%を大きく上回っていたにもかかわらず、一時的と判断し、金融引き締めに転じる姿勢を見せなかったのだ。
ようやく引き締めに転じる姿勢を見せたのが21年11月である。時すでに遅く、インフレは高進し、22年6月には消費者物価上昇率の前年比は9.1%に達した。7月も低下したとはいえ8.5%と高水準だ。
ECB(欧州中央銀行)もインフレ抑制が最優先だ。シュナーベル専務理事は、同じくジャクソンホール会議の場で、景気を犠牲にしてでもインフレを抑える姿勢を示した。ユーロ圏の7月の消費者物価の前年同月比上昇率は、8.9%と過去最高を更新している。
しかし市場は、こうした中央銀行のインフレ抑制に向けた決意を正しく受け止めていないようだ。その見通しは甘いと言わざるを得ない。次ページから理由を解説していく。