母子3人無理心中、次女が遺書9枚に綴った苦しい胸の内

 また、もう一つの事件はソウル近郊の水原(スウォン)の住宅で起きた。8月21日、家主から悪臭の通報を受けた警察が中を調べたところ、60代の母親と40代の娘2人の遺体が見つかった。真夏の暑さにより、遺体は腐敗が進んでいたという。自宅からは遺書も発見され、この母子3人が無理心中を図ったという見方がされている。

 数年前までは健在であった父親が事業に失敗の上、借金を残して亡くなったという。さらに母親はがんを患っていた。2人の娘はいずれも結婚しておらず、長女は難病を抱え、次女は細々と母子の生活を支えていたという。次女が書いたと思われる遺書は9枚にも及び、なすすべなく苦しい生活の現状や、「生きることがとてもつらい」という内容がしたためられていた。

 実は、2014年にもソウル市内で今回と同じように母子3人が生活苦を理由に心中するという事件が起きている。このときの事件を教訓に、自治体は保険料や税金などが一定期間滞納されている世帯への訪問や調査、情報の共有といった対策を強化していた。しかし、今回の3人は近隣の市から水原市に引っ越しをしていたが転入届が提出されていなかったため、転入前に居住していた地域で健康保険料が滞納されていたという事実などが共有されず、セーフティーネットから漏れていたとみられている。いくら自治体が対策の改善をしようとも、当事者たちが声を上げたり、周囲の人が知らせたりしない限り、社会的弱者の実態を全数把握することは困難であろう。

 結局、母子3人の葬儀や遺骨の引き取りは、市が親族に連絡を試みたものの拒否され、母子の最後の居住地となった水原市が葬儀から遺骨の安置先の取り決めまでを行った。母子の生前の苦しみを思うと実に身につまされる話ではあるものの、市の職員たちが母子の弔いを最後まで行ったのは、せめてもの救いであるといえるかもしれない。