現在進行形で拡大する
英連邦の強みとは?

 例えばロシア・ウクライナ戦争において、英国はEU諸国と異なり、紛争を積極的に止めようとしていない印象だ(第304回)。

 なぜそうした態度を取れるかというと、英国には英連邦の強力なネットワークがあり、ロシアにエネルギー資源を依存していないからだ。いわば、英国は紛争によって生じる「損失」が非常に少ないのだ。

 英連邦は「大英帝国の残骸を残しているにすぎない」というのが日本での一般的なイメージだが、実態は全く異なる。今でも加盟国が増加し、現在進行形で拡大している。

 この連載では以前、旧英国植民地ではないルワンダが2009年に加盟したことを紹介した(第134回・p5)。加えて、同じく旧英国植民地ではないガボンとトーゴも2022年に新たに加盟した。パレスチナ自治政府や南スーダンも加盟に前向きだ。

 新たに加わりたい国・地域が今も存在する理由は、独裁政権を倒して民主化を果たした小国(主にアフリカ諸国)や、新しく誕生した国家でも加盟しやすいからだ。

 そして国際連合よりも、国際社会で発言する機会を得やすい。また、英系グローバル企業とのネットワークによる、経済成長を期待する国もある(第20回・p5)。

 英連邦は巨大な経済圏である。世界の国土面積の21%を占め、総人口(24億人超)は全世界の人口(約77億人)の3分の1弱を占めている。GDPの合計値は11兆ドル超で、米国の約21兆ドル、EUの約18兆ドル(英国含む)、中国の約15兆ドルに次ぐ経済規模である(Webメディア『政経電論』の記事『インド太平洋地域への関与を強めるイギリス 「英連邦」をどう使う?』参照)。

 また、英連邦加盟国には、資源大国であるカナダ、オーストラリア、南アフリカ、ナイジェリアが加盟している。

 世界で2番目に人口が多く、ハイテク国家としても知られるインドや、マレーシア、シンガポールなど東南アジアの多くの国も含まれている。そして、今後「世界の工場」となることが期待されるアフリカ諸国の多くも英連邦だ。

 政治的には、カナダはG7、インドや南アフリカは新興国の雄「BRICS」の一角だ。オーストラリアやシンガポールなどは、それぞれの地域で主導的立場にある。

 要するに、加盟国が政治的・経済的に多様な特徴を持ち、その規模以上に巨大なパワーを持つ経済圏を形成しているのが、英連邦の特徴である。

 こうした主要エリアを押さえているからこそ、英国はEUとは違って「エネルギーの自給」に困らない。GDPの単純比較では、EUの約18兆ドルに対して、英連邦は約11兆ドルと劣っているが、「ロシアからのガス・パイプラインに依存しなくて済む」という英連邦の強みは計り知れない。