アマゾンPhoto:123RF
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 米アマゾンは、米ワンメディカルを約39億ドル(約5400億円)で買収(全額現金)し、ヘルスケアサービスの拡充に向けて、再び挑戦する。アマゾンが今回の買収で出した声明文のなかで、診察予約や薬局への処方薬の受け取りといったペイシェント・ジャーニーの体験を「再発明することを目的としている」と宣言している。ペイシェント・ジャーニーとは、これまでの中心であった医療機関でなされる「治療」だけでなく、治療の前段にある「予防」と後段にある「回復」を含めて一気通貫でケアすることを指す。

 米国の医療費は、賃金やインフレ率よりも上昇しており、患者負担はもちろん、医療保険などを提供する事業主の負担は大きくなっている。そのため事業主と保険会社は、患者に定期的なケアを促すことで、高額な入院費用の発生を抑えるとともに、慢性疾患の予防につなげたい。そこで医療支払側は、患者のケアへのアクセスを改善し、患者が自らの健康に常に注意を払い、定期的に受診し、処方箋を受け取る行動を取るような対策に重点を置いてきた。

 こうした場合、患者の多くは、数週間前あるいは数カ月先の診察予約を入れ、当日は診療所までの運転と駐車場の検索、待合室での待機、診察室で医師から数分程度の診断を受け、その後に処方箋を受け取り、薬局に向かっていた。診療所まで運転することを除いては、日本も同じだろう。

 だが、新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、遠隔医療および仮想医療訪問に対する消費者の需要が爆発的に拡大し、従来型のペイシェント・ジャーニーは崩れ去った。アマゾンの買収戦略は、新型コロナ後の新しいペイシェント・ジャーニーに焦点を置いたものといえよう。