ダイソン創業者が、前身事業「手押し車」から掃除機の開発をひらめいた訳Larry Busacca/gettyimages

視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。

メジャーリーガー大谷翔平と
ダイソン創業者の意外な共通点

 先日、メジャーリーグで大活躍を続ける、ロサンゼルス・エンゼルス大谷翔平選手の若手時代のエピソードを調べて読んでいた。

 すると、大谷選手が北海道日本ハムファイターズ時代に指導を受けた、当時の栗山英樹監督のコメントが目に飛び込んできた。「翔平は、チャレンジしてみることがうれしくてしょうがないという価値観を持っているんです」というものだ。

 チャレンジにワクワクする気持ちは、多くの人が持っているものに違いない。ただ、いざ「未知」に足を踏み入れる段階になると、不安が勝り、おじけづいてしまいがちだ。不安に打ち勝ったとしても、何度もうまくいかなければ、「やっぱりダメだな」と気持ちがしぼんでしまう。

 大谷選手のように前人未到の偉業を成し遂げる人は、挑戦に対して単に「ワクワクする」だけではないのだろう。栗山氏が表現するように「うれしくてしょうがない」、すなわち「度を越してワクワクする」メンタリティーを持っているのではないか。

 今回紹介する書籍『インベンション 僕は未来を創意する』(日本経済新聞出版)の著者であり、家電メーカー・ダイソン(Dyson)創業者のジェームズ・ダイソン氏も、そんなメンタリティーを持っていたようだ。

 この本は、ダイソン氏による興味深いエピソードが満載の自伝だ。同氏の飽くなき挑戦の日々を通して、ものづくりやイノベーションの神髄を伝えている。

 ジェームズ・ダイソン氏は、サイクロン掃除機や、羽根のない扇風機などのユニークで高機能な家電で有名なダイソンの創業者兼チーフエンジニアだ。

 ダイソン氏は1947年に英国ノーフォークに生まれ、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでデザインを学んだ。その後、製造会社のロトルクに入社して、上陸用高速艇「シートラック」のエンジニアリングと製造に携わり、1993年にダイソンを設立した。