“管理職”になるとできなくなる、ビジネスで重要な考え方とは?Photo: Adobe Stock

効率よく仕事を進めたい、アイデアがパッとひらめくようになりたい、うまい受け答えができるようになりたい…。身近にある「こうなりたい」の近道は、ずばり「考え方のコツ」を手に入れることだ。
『グロービス流「あの人、頭がいい!」と思われる「考え方」のコツ33』では、MBAのクラス、学者、コンサルタントなど、「考えることにこだわっている」人たちが日常で使っている、確実に生産性が上がる考え方のコツだけを紹介している。今回は本書から「イメージで考えるコツ」を特別に公開する。(イラスト:fancomi)

“管理職”になるとできなくなる、ビジネスで重要な考え方とは?

文字だけではなく、
具体的なイメージをする

 人間は何かを考える際、言葉だけで考えるということはなく、ぼんやりとしたイメージで考えるものです。状況にもよりますが、具体的な案件を考える際には、頭の中でよりクリアなイメージを描いて考えると効率が上がることが多々あります。その分かりやすい例がマーケティングにおける、製品のイメージです。

 よくアンケートなどで製品コンセプトを文字で表現したものを読まされて「買いたいと思いますか?」という質問に答えることがありますが、多くの人はその文字をいったん頭の中でイメージに置き換えようとするものです。その置き換えが人によってバラバラになってしまうと、アンケートの信頼性が損なわれてしまいます。このとき、具体的なイメージを図で示すと、そうしたばらつきが減り、より信頼性の高い結果を得ることができます。イメージという武器を使って考えることは、人間の思考を好ましい方向に促すのです。

モノやサービスをイメージする

 この例からも分かりますが、イメージで考えることがフィットする代表的なシーンに新製品や新サービスの開発があります。どんな人が買いに来るのか、彼らはその製品・サービスをどのように使うのか、それに対してどのような感想を抱きそうか、どのようなプロモーションが効果的なのかなどをイメージしてみるのです。そうすると、「このサービスは20代前半の女性を顧客ターゲットとして想定しているけど、彼女たちがこれを使っているイメージが今ひとつ湧いてこない。もっと直接的に訴求するものがないと競合に勝てないのではないか」といったことが想像できるわけです。

 筆者はビジネス書を書くことが多いのですが、企画書を作る段階では、やはり読者像をイメージします。だいたいは30代のビジネスパーソンということが多いのですが、時には20代のビジネスパーソンを想定したり、逆に40歳くらいのビジネスパーソンをイメージすることも多々あります。そうしたイメージが出来上がると、それが文体にも反映されますし、用いる事例などにも反映されるのです(なお、20代向けでもあえて「背伸び」していただくためにあたかも30代向けの書きぶりをすることはあります)。

具体的なイメージは良い議論につながる

 マーケティングではペルソナという、サービス・商品の典型的なユーザー像をかなり具体的に設定することがあります

 たとえば、「名前は山岡優香。東京都文京区本郷に住むアラサーのビジネスウーマン。IT企業で営業職をしている。年収○○万円。独身、彼氏あり。夜は自宅でネット動画を見ることが多い……」といった感じです。具体的にイラストを描くこともあります。これなどは、より具体的な顧客イメージを組織内で共有し、議論するための仕掛けともいえます。

「この山岡さんがこの製品を使うとしたら、こんな機能も欲しがるんじゃないのかな」といった議論がしやすくなるのです。具体的なイメージで考えることの力は偉大なのです。

固有名詞で反応をイメージする

 冒頭コミックでも紹介したように、ある制度を提案した場合、どのような反応が起きるかをイメージで考えることも有効です。

「Eさんなんかは露骨に嫌な顔をしそうだ。Fさんは大賛成だろう」など、キーパーソンの反応などは固有名詞レベルで具体的にイメージしてみてもいいでしょう。30人程度であれば、固有名詞で考えることはそこまで大変ではありません。大企業になるとさすがに全員の反応を固有名詞レベルで考えるのは難しいですが、それでも典型的な社員像を何パターンかイメージし、検討することは有効です。

「30代の中堅社員には絶対に受けないだろう。この層にも受け入れられるような施策も盛り込んで改変すべき」といった感じです。施策というものはあまりに朝令暮改を繰り返すのも好ましいことではないので、事前にしっかりその反応をイメージしておくことが必要です。

 ケースによってはソシオグラム(本書の38ページ参照)という関係者の相関図を書くこともあります。その際、影響を与える人をモレなく書くことが必要です。そのうえで、そこに書かれた関係者がどのような反応を示しそうかを頭の中でイメージしてみるのです。

 余談ですが、なぜか国家的な施策には、こうしたイメージで考えるという作業を欠いたと思われるものも少なくありません。マイナンバーなどはその典型といえるでしょう。プライバシーの問題もさることながら、利便性の高いものにしないと使われないはずなのですが、その部分の検証があまりなされていない気がします。

 2020年前半には、9月入試にしてしまえばどうかという議論も出ました。一つの案ではありますが、誰にどのような影響を与えるかの議論が十分ではなかったように思います。今年の受験生にどのような影響があるのか、来年以降はどうなのか、学校関係者にはそれぞれどんな影響があるかなどです。実際に全員がWin-Winになることはないとはいえ、これほど広範に影響を与えるような施策に関しては、やはりしっかりと考え抜くことが必要といえそうです。

正しいイメージのために
持ち続けるべき「現場感」

 より正しくイメージで考えるために必要なのが現場感です。社員の現状を知らない人事部長が何か人事施策を考えてもうまくいかないでしょう。フランチャイズを展開するチェーンが店舗を改装する際にも、今の典型的な店舗の様子を知らずにこれを行うことはできません。自分のアクションが影響を与える人をイメージするためには、当然彼らのことをよく知ることが前提となります。本来当たり前のことなのですが、先のマイナンバーのように、意外になおざりにされることが多いものです。

 会社の管理職も、偉くなるにつれて現場感覚を失う人は少なくありません。営業や生産部門はまだましなのですが、特にコーポレート部門の管理職は、ただでさえラインの現場から遠いところにいることもあって、現場感覚を欠くことが少なくありません。企業によってはそうならないように、ラインとコーポレート部門での人事ローテーションを積極的に行うこともあります。自身をメタレベル(一段上から客観的に見ること)で眺め、「自分のイメージしている像は実態を反映しているか?」という自問をし続けることが求められます

★効果的なシーン

何か新しいことを起こすときに誰にどの程度の影響を与えるかを検討する

★一目置かれるためのポイント
顧客イメージを正しく持つ

②固有名詞レベルでイメージする
③実態と乖離しないように、現場感を持つ努力をする

(本記事は『グロービス流「あの人、頭がいい!」と思われる「考え方」のコツ33』〔グロービス著、嶋田毅 執筆〕の抜粋です)