ラテン語こそ世界最高の教養である――。東アジアで初めてロタ・ロマーナ(バチカン裁判所)の弁護士になったハン・ドンイル氏による「ラテン語の授業」が注目を集めている。同氏による世界的ベストセラー『教養としての「ラテン語の授業」――古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流』(ハン・ドンイル著、本村凌二監訳、岡崎暢子訳)は、ラテン語という古い言葉を通して、歴史、哲学、宗教、文化、芸術、経済のルーツを解き明かしている。韓国では100刷を超えるロングセラーとなっており、「世界を見る視野が広くなった」「思考がより深くなった」と絶賛の声が集まっている。本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。

「セックス」の驚くべき真実、ルーツはラテン語にあり!Photo: Adobe Stock

「セックス」の意外すぎるルーツ

 英語で「性、性行為」を意味するセックス sex という単語と、ラテン語の基本数詞「6」である「セックス sex」は同じスペルです。

 ですが、英単語のsexはラテン語の「6」から来たものではなく、「性、性別、生殖器」を意味するラテン語「セクスス sexus」に由来したものです。

 それなのに「6」という基本数字から、英語の「sex」を想起するのはどういう理由でしょうか?

 これを説明するには、まず聖書の十戒の話をしなければなりません。

 ローマカトリック教会とルーテル教会の十戒は、その内容や順序がわずかに違っているものの、6番目の戒律「姦淫するべからず」は共通しています(一部プロテスタントやユダヤ教では7番目)。『出エジプト記』20章14節や『申命記』5章18節、『マタイによる福音書』5章27節にある言葉です。

 そしてこの戒律をラテン語で言うと「6(セックスsex):ネクェ・モエカベリス neque moechaberis」です。ここから「姦淫」という名詞「モエキア moechia」が派生しました。

 中世の時代環境に合わせて「姦淫、姦通」を意味する単語はますます細分化・発展していき、姦通は「アドゥルテリウム adulterium」、売春・不倫は「フォルニカティオ fornicatio」になりました。これを英語がそのまま採用してadultery(姦通)、fornication(私通、姦淫)という英単語になりました。

 やがて、宗教的な影響が強かった中世の時代には、第6戒律は口にするのもはばかられるようになっていきました。

 そこで人々は、「6(sex)」とだけ簡略に言うことで、指示代名詞の代わりとしたのです。それがラテン語で本来の「性」を意味するsexusと一致して語源となり、英語のsexが性・性行為を意味する単語として定着しました。

(本原稿は、ハン・ドンイル著『教養としての「ラテン語の授業」――古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流』を編集・抜粋したものです)