「早期リタイアが夢という方がFIREを目標にするのは素晴らしいこと。でも今のブームに踊らされて、FIREは誰でも参加できるゲームと考えているのだとしたら危険です。たとえば年収1000万以上あれば余裕を持ちながら投資も貯蓄もでき、FIREは可能かもしれません。しかし年収400万~500万前後の会社員にはFIREを目指せるだけの資産運用は非常にハードルが高いと思います」

 本気で早期リタイアを実現しようとするなら、そもそも若いうちから他の人よりも多くの収入を得ていないと難しい。基本的にFIREを目指せるのは現状お金に困っていない、将来的にも困る可能性の低い人たちであって、要はつぶしが利くゲームをしているわけだ。

「普通の会社員が日々の生活を切り詰めて10万、20万を投資、運用に回す。それで利益を出すことはもちろんできますが、そんな生活を何十年も続けなければいけない。給料が減る、今のように物価が上がり生活費も高騰するなど変動要素のバッファーがない状態でFIREを目指すと、のちのち自分の首を絞めることになります」

 ネット上には毎月10万円の投資がウン千万円に!など40代50代でFIREを達成した人のストーリーが躍るが、なかには大きな投資額によって苦しい生活を余儀なくされている人もいる。OLのミドリさん(仮名・39歳)は身の丈以上の投資で大損したことを今でも悔やんでいる。

「とにかく仕事を早く辞めたくて、独身で貯金もそれなりにあったので毎月10万円以上投資に使っていました。利益も順調に出ていたんですが、コロナショックで一気に下落。結局500万円近く損することになってしまいました。投資のために都心から郊外のアパートに越して食費も切り詰めて頑張っていたので、しばらく立ち直れませんでした…」

 誰しも一度は「働かないで生活したい」と思ったことがあるはず。しかし、わざわざ会社員という肩書を手放すのはもったいないほど会社員にはメリットが多い。

「会社員の保障の手厚さはフリーランスとは比べ物になりません。フリーランスは体を壊したりけがをしたりして動けなくなったら、お金が減るだけですが、会社員の場合は最長1年6カ月、給料の3分の2程度が保障される傷病手当金がもらえて、労災も下ります。女性であれば出産手当金や育休中の収入も保障されますし、老後は基礎年金にプラスして半額負担で厚生年金も加算され、共働き夫婦であれば年金をベースに生計は立てられる。毎月10万以上投資しないと…という世界ではないので、会社員で居続ける限り、大きくお金に困るということはありません」(井上氏)

 体や心の不調、病気、事故、妊娠出産、さまざまな事情で働けなくなった場合でも会社員でいれば即座にお金に困るということは少ない。ライフイベントの見通しも立てやすく、不安定な世の中だからこそ、会社員を継続するメリットは大きいのだ。