「何がめでたい?オリンパス」
8月下旬、大手経済紙・誌を中心に突如、オリンパスの礼賛報道が沸き起こった。歴代トップらの申し送りによる巨額損失飛ばしの発覚というスキャンダルから10年余り。同社の「再建」への取り組みが、一応は成功したと見たうえでの総括と展望という趣旨の記事であったが、読後に去来したのは冒頭に記した思いだった。
礼賛のきっかけは、8月29日に正式発表されたオリンパスの科学事業子会社、エビデントを米投資ファンドのベインキャピタルに売却するというニュースだった。内視鏡や外科用デバイスといった医療機器分野に集中するため、顕微鏡や測定機器を手掛ける同社の祖業を切り離す経営判断に加え、譲渡額が下馬評を大きく上回る4276億円という破格の値段だったことが注目を集めた。「改革の総仕上げ」と持ち上げた記事もあった。
しかし、である。冷静に振り返れば一連の顛末は、不正の解明に当たった第三者委員会に「経営中心部分が腐っており、その周辺も汚染されていた」とまで言わしめた醜悪極まる同社の企業統治が、今回の報道内容が正しいとすれば、「本来あるべき姿」に戻っただけに過ぎない。
修正決算によって4.6%にまで落ち込んだ自己資本比率は、国内同業だけでなく、米国のアクティビストにまで頭を下げるなりふり構わぬ外部資本の受け入れで、足元では40.5%に上昇するなど財務体質は確かに改善をみた。形式的には整えられていたものの、機能していなかった社外取締役制度も厳しく糾弾された結果、トップの暴走を防ぎ、経営の透明性と健全性を担保する体制がつくられた。国内の上場企業では導入例が90社ほどに過ぎない「指名委員会等設置会社」への移行が代表例だ。
これらの過程で投じられた経営サイドの労力が、並大抵なものではなかったことは想像に難くない。世界シェア7割を誇る内視鏡事業がもたらす潤沢なキャッシュが会社を下支えし続けたとはいえ、断末魔のなかで指揮を執った笹宏行前社長と、その改革路線を継承した竹内康雄現社長の精力的な働きなくして、今日の姿に持っていくことは不可能であったろう。