医薬経済ONLINE2018年8月1日号で、この会社を「医療のダイソー」と例えたのをご記憶であろうか。いわゆる大手製薬企業やハイエンドな医療機器メーカーによる営みと品揃えを、仮に「医療のデパート」と称するならば、この会社、すなわちニプロは「100円ショップ」のビジネスモデルと同じく、「良品廉価」といった基本コンセプトのもと、精力的な新製品開発と汎用量産技術をテコに業容を拡大してきた企業だと紹介した。
ダイソーとのアナロジーを続けさせてもらえれば、近年はデフレ(保険償還価格の引き下げ)に抗する注目企業の代表格という評に飽き足らず、それこそ百貨店や総合スーパーがメインの陳列棚に並べたがる画期的な新製品の自社開発と販売にも色気を見せている点も類似する。さらに言えば、沿革も妙に似た傾向がある。
ニプロは周知のとおり、12年に亡くなった創業者の佐野實氏が敗戦のドサクサのなか、滋賀県で始めた裸電球の廃品再生事業を祖とする。ガラス加工のノウハウに自信を付けると、アンプル用ガラス管や医療用ガラス製品の取り扱いを開始し、69年に注射針を生産していた富沢製作所(現ニプロ医工)に資本参加したのを機に、医療機器分野に本格参入した。その後、人工腎臓「ダイアライザ」の量産によって業界内に橋頭堡を築いた。88年には菱山製薬(現ニプロファーマ)に出資して医薬品分野への進出も果たした。
21年3月期の業績は売上高が前期比2.9%増の4555億円、営業利益が同4.6%増の276億円で、5期連続の増収と3期連続の増益を果たしている。配当も1円増配の29円と積極姿勢を見せており、これらの数字を見る限り優良企業として映る。
一方、ダイソーを運営する大創産業(広島県)は、創業者で現会長の矢野博丈氏が、倒産、夜逃げ、火事、転職などのドタバタの末、72年にトラック1台でスタートした家庭用品の移動販売業が始まりだ。77年に大創産業として法人化し、87年に「100円SHOPダイソー」のブランドで全国展開を始めた。当初は不況下に咲く仇花ビジネスとの見方が強かったが、その後の躍進ぶりは改めて語るまでもないだろう。いまや、国内外に5900店近くを超える日本トップの100円ショップチェーンとなっている。株式未公開のため、経営の数字は直近の売上高が5262億円ということしか開示されていない。
そうしたなか、18年に博丈氏の次男である靖二副社長が社長に昇格した。経営の若返りを図るとともに、近い将来の株式公開をめざした経営体制固めだと、市場関係者は受け止めている。IPOが実現すれば「時価総額は1兆円を超える可能性がある」(証券アナリスト)と噂されており、Xデーに向けて期待は高まる一方にある。