経営の中枢に「高度デザイン人材」の活躍の場を

――企業側のアクションとして、今後期待されることは。

 中小企業の場合は、まずはデザイン人材の採用ですね。これは供給側の改善も必要ですから、経産省が「高度デザイン人材」の育成に取り組んでいますし、中小企業庁のGo-Tech 事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)でも、デザイン経営のサポートが強化されています。

 一方、大企業にはしっかりしたデザイン部門があるのですから、インハウス(企業内)デザイナーにちゃんとしたキャリアを与えてほしい。ずっと会社を支えてきたのに、取締役に上がるのは技術系と会計系だけで、デザイナーは担当部長止まりって、おかしいでしょう? 

――確かに、社員デザイナーとして名をはせた人は、会社で偉くならずに独立するケースが多いように思います。

 もったいない話です。社外取締役に私のような学者を連れてくるより、社内の素晴らしい人材を使った方がいい。有名デザイナーを抱えている企業も結構多いので、彼らをまずボードメンバーに入れてほしいと思います。

 アップルがすごいと言う経営者は多いのですから、スティーブ・ジョブズばかりに注目せず、ジョナサン・アイブというデザイナーをナンバー2にしたことをまねてほしい。そういう意味でも、パナソニックの臼井さんが執行役員になったことの意味は大きい。あれだけ横に広い会社ですから、苦労されるでしょうが、誰かがやらなくちゃいけないし、事例が増えれば「ああいうやり方があるのか」と、後に続く会社も増えて、「日本のデザイン経営」が見えてくるのではないでしょうか。

――現状では経営者の大半がデザインを学んでいないので、デザインに関与することへの負い目や遠慮もあるのではないでしょうか。

 若い人をどんどん上げて身近に置けばいいんです。特に女性ですね。女性はキャリアチェンジがうまいし、感性に優れた人が多いですから。もちろん、そういう人は古い体制の破壊者になるでしょう。でも、破壊されることを喜ばないといけない。頭の固い経営層ばかりの企業で国際競争力が育つはずもありません。デザイン経営に限らず、DXが進まないのも、ダイバーシティが進まないのも、全て同根です。サーバーに詳しいベテラン社員の代わりに、センスのある女性がトップに立った方がDXだって進みますよ。