北海道に本社を持つ、ある企業。総務課のAさんは東京営業所で現地採用され、本社への異動はなしという条件で働いている。しかしある日Aさんは、自分の基本給15万7000円は、時給1300円で募集している自分の部下のパート社員よりも安いことに気付いてしまった。「パート社員より正社員のほうが給料が安いなんて、おかしくないですか?」Aさんの訴えに、社労士の答えは……。(社会保険労務士 木村政美)
食品製造・販売を行う会社で、北海道に本社と工場、東京に営業所がある。従業員数は200名(本社勤務180名、東京営業所勤務20名)
<登場人物>
A:専門学校卒業後、甲社の東京営業所に入社。総務主任で25歳
B子:今年8月に入社したパート社員
C:東京営業所の所長
D:甲社の顧問社労士
パート社員3人に仕事を教える上長の立場
甲社の東京営業所は、主に自社製品の営業を担当する部門で、Aは入社以来ずっと総務事務を担当している。営業所長や営業職の社員は本社から転勤してくるが、総務職のみ正社員、パート社員ともに東京営業所で採用し、本社への転勤はない。Aは入社以来ずっと、会社から電車で20分の場所にある実家から通勤していた。
総務職のメンバーは4名。正社員はAのみで、あとの3名は週3日×6時間勤務のパート社員である。その中の1人が7月末で退職し、代替要員としてB子が入社したので、Aは上司として仕事を教えることになった。
明るい性格のB子は、Aや他の社員達とすぐに打ち解けた。しかし今までパソコンを扱う仕事に就いたことがなかったため、操作をなかなか覚えられず指導に苦労した。9月に入ってからやっとB子の仕事が回るようになり、Aは安堵した。
10月の給料日。自分の給与明細書を見たAは、「総支給額17万円」と書かれた欄を見て深いため息をついた。
「残業がなくなるとこんなに給料減っちゃうんだ。ここから税金とか引かれたら、手取りはもっと少なくなるわけで……。ああ、もう給料明細なんか見たくない」
Aの業務は営業事務も兼ねていたためそれなりに忙しく、入社時から今まで1カ月で30時間の残業をすることが普通だった。しかし、9月から営業社員の旅費精算システムを導入し管理が簡素化されたことと、Aが担当していた業務の一部を本社の総務課に移行したため残業はなくなった。