命令する男性社長写真はイメージです Photo:PIXTA

社長から業務命令として、宅建士の資格取得を命じられた社員。社長は簡単だと言うが、その資格試験はかなり難しいものだった。さらに「不合格だったらクビ」だと言われ……。会社は社員に対し、資格の取得を命じること、そして、試験に落ちた社員を解雇することができるのだろうか?(社会保険労務士 木村政美)

<甲社概要>
首都圏郊外の都市にある不動産会社。本社のほか7カ所の営業所があり、従業員数は120名
<登場人物>
A:会計専門学校卒業後、甲社総務課勤務の30歳
B:甲社の社長、55歳
C:総務部長でAの上司
D:甲社の顧問社労士

来月から、別の営業所に移ってほしい

 6月下旬のこと。AはB社長から意外な打診を受けた。

「乙営業所の営業社員が6月末で退職することになった。急遽その穴を埋めないといけないんだが、どうしてもやりくりがつかない。そこで、A君に7月から乙営業所に移ってもらいたいんだが、どうかね?」

 AはB社長に尋ねた。

「乙営業所ではどんな仕事をするのですか?」
「顧客への物件案内や問い合わせの対応が主で、基本は内勤だけど営業職扱いだよ。今までと仕事の内容は違うけど、詳しいことは乙営業所長(以下「乙所長」)が教えてくれるから心配しないで」

 Aは入社してから本社の総務課で社員の給与計算や労働・社会保険の資格取得喪失の手続き業務などをほぼ一人で担当していた。社員の入れ替わりが激しい上に、問い合わせやトラブルも多く、対処に時間を取られるなど激務だった。残業が多く休日出勤もある今の職場に正直にウンザリしていたので、異動の話は二つ返事で承知した。B社長は上機嫌になった。