テレビ局TBSを退社したのち、プルデンシャル生命保険で「前人未到」の圧倒的な業績を残した「伝説の営業マン」である金沢景敏さん。営業マンになった当初はたいへん苦労しましたが、あることをきっかけに「売ろう」とするのをやめた結果、自然にお客様から次々と「あなたからサービスを買いたい」と連絡が入るようになりました。本記事では、金沢さんの営業手法のすべてを明かした『超★営業思考』では紹介し切れなかった、重要人物を怒らせてしまったときの対処法についてご紹介します(構成:前田浩弥)。
重要人物を怒らせてしまったとき、
どうすればよいか?
ピンチはチャンス――。
スポーツの世界でよく使われる言葉です。大学時代にはアメフト部に所属し、卒業後に入社したTBSでもスポーツ番組のディレクターとしてキャリアをスタートした僕も、自分が試合に出たり、選手に取材したりする中で、この言葉は真実だと身をもって感じていました。
そしてこの言葉は、スポーツに限定したものではない。社会人として経験を積むうちに、そう思うようになりました。
TBS時代に経験した、強烈な思い出があります。
ディレクターとして駆け出しのころ、オフィスでの僕の席は、スポーツ局でエース格を担っている先輩の隣でした。電話のやりとりや、上司への報告の仕方、メンバーとのコミュニケーションの取り方など、すべてが勉強になる優秀な先輩でした。
ところが、ある日のこと、その先輩が、社運を賭けているプロジェクトを成功させるためには欠かせない、きわめて重要な人物を些細なことで怒らせてしまいました。
そのプロジェクトとは、TBSが当時、力を入れていたボクシングのビッグイベント。先輩はそのビッグイベントを中継する番組制作を担当していましたが、あるジムの会長を怒らせてしまい、試合の中継が危ぶまれる事態となってしまったのです。
TBSとしても、そしてもちろん、先輩にとっても緊急事態です。しかし先輩は、取り乱すことなく、トラブルの直後から、毎日毎日、ジムに謝罪に出向きました。
後から聞いたところによると、当初は出入り禁止状態。朝から晩までジムの前でずっと立っていても、会長は完全に無視を決め込んでいたようです。それでも先輩は毎日、早朝からジムに通い続けました。
そしてある日、朝から雨が土砂降りでも、変わらずジムの前に立っていたところ、ようやく会長は「中に入りなさい」と先輩を中に迎え入れてくれたといいます。
まさに、雨降って地固まる。会長は先輩の謝意を受け入れたばかりか、それまで以上の信頼を寄せてくれるようになります。そして数カ月後、日本中が注目するビッグマッチの放送を、TBSは任されることになるのです。
「誠意」を形にして示すことで、
ピンチはチャンスへと変わる
逆境に立たされたとき、初めてその人の人間性が出る――。
僕はそう考えています。ピンチを前に、「この状況でどうすればよいか」と自分にできる最善策を考えるか、「なんでこうなっちゃったんだよ。あいつのせいだよ……まったく」と人のせいにするかは雲泥の差ですし、周りの人はみな、その振る舞いを見ているものなのです。
TBSを辞め、生命保険の営業マンになってから、もうひとつ、逆境を打開したエピソードを耳にしました。かつてある会社の営業職として働いていて、のちにその会社の社長となった、Aさんの話です。
Aさんの会社は雑貨メーカーですが、先代社長が、ある小売店チェーンの社長と仲違いをしていたらしく、そのチェーンでは自社の商品を一切、扱ってくれなかったそうです。そして、これが、会社の業績の足を引っ張っていたのです。
その先代を受け継いで社長に就任したAさんは、なんとしてもそのチェーンとの関係を修復したいと考えました。そこで、「誠意」を伝えるために、毎朝、そのチェーンの本店の前で、掃き掃除をすることにしたのだといいます。
すると、2週間ほどたったころ、本店の建物からチェーンの社長が出てきて、こう声をかけたそうです。「君の気持ちはわかった。もう勘弁してくれ」。そして、応接室に招き入れられ、そこから会社としての付き合いが始まったのだそうです。
それ以外にも、同じようなエピソードをいくつも見聞きし、僕自身、これに類した経験をするなかで、いつしか、「ピンチ」に直面したときにも無闇に落ち込まないようになりました。
大事なのは、逃げずに相手と向き合うこと。そして、「謝罪の意」と「誠意」を形にして示すこと。もちろん、相手は怒っていらっしゃいますから、すぐに受け入れてはもらえません。しかし、かたくなに「謝罪の意」を示し、「誠意」を示し続ければ、いつか必ず相手は心を開いてくださるものなのです。
もちろん、僕の先輩のように毎日謝罪に通ったり、Aさんのように掃除をすることだけが、「謝罪の意」や「誠意」を示す方法というわけではありません。気持ちを伝える方法はケースバイケース。状況に応じて、最善の方法を考える必要があります。
とにかく、ピンチを迎えたときに、自分にできる最善策を愚直にやり抜くことが大切。誰かのせいにするのではなく、自分のせいだと責任を引き受けて、最善を尽くす。その姿勢が伝われば、相手の気持ちも変化し始めます。そして、時には、以前よりも強い「信頼関係」が生まれることすらありえます。だからこそ、ピンチはチャンスなのです。
元プルデンシャル生命保険ライフプランナー AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
1979年大阪府出身。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍。大学卒業後、TBS入社。テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じて、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命保険に転職した。当初は、思うように成績を上げられず苦戦を強いられるなか、一冊の本との出会いから、「売ろうとするから、売れない」ことに気づき、営業スタイルを一変させる。そして、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRT(Million Dollar Round Table)の6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、自ら営業をすることなく「あなたから買いたい」と言われる営業スタイルを確立し、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な業績をあげた。2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReebo(アスリーボ)株式会社を設立した。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。