クリミア大橋が爆破されたことへの報復措置として、ロシア軍がウクライナへの大規模ミサイル攻撃を行った。「ミクロ」な視点で戦況を見ると、この攻撃によってロシアが再び優位に立ったように思える。だが「マクロ」な視点で国際関係を読み解くと、ロシアは大規模ミサイル攻撃によって自らの首を絞めたといえる。ただし、ロシアが苦肉の策として繰り出した「核の脅し」は侮れず、NATOの結束を分断させる危険性を秘めている。そういえる要因を詳しく解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
ロシアがウクライナを「報復攻撃」
戦争は泥沼化が続く
ロシア軍は10月10日以降、ウクライナの首都キーウなどに大規模な攻撃を加えた。攻撃対象となったのは16都市で、使われたミサイルは84発に上り、120人を超える市民が死傷したと報じられている。
この攻撃は、ウクライナ南部のクリミア半島(ロシアが2014年に併合)とロシア本土とを結ぶクリミア大橋が爆破されたことに対する報復だとみられる。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、クリミア大橋の爆破をウクライナによる「テロ行為」と断じ、「仕返し」のために大規模な攻撃を命令したようだ。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアによるミサイル攻撃を「市民の殺害を狙った無差別攻撃だ」と激しく非難している。
ロシアによる大規模攻撃を受け、G7(主要7カ国)は緊急会合を開き、ミサイル攻撃を「戦争犯罪」であると断罪。ウクライナを支援していく姿勢を示した。
ウクライナおよび西側諸国とロシアの対立はさらに深まり、まったく停戦の見通しが見えない。ロシア軍による「自爆型ドローン」を使った攻撃も加速し、戦争は泥沼化の一途をたどっている状況だ。
そうした状況下で、「核の脅し」を繰り返してきたプーチン大統領が、本気で核兵器を使用するのではないかという懸念も広がっている。
今後のウクライナ情勢はどうなるのか。プーチン大統領は本当に「核のボタン」を押してしまうのか。
私はこうしたポイントを読み解く上で、ウクライナ戦争を「ミクロ」と「マクロ」の2つの視点から見る必要があると考えている。