ジェラシーとマウンティングを巻き起こすリング
しかし! しかしですよ。右手薬指の場合はどうだろうか。
よっぽど仲の良い友達や、まだそれほど恋愛経験のない高校生、大学生なら彼氏と行った場所、デートの内容、もらったプレゼントの中身を毎回ラインか何かで連絡するかもしれないが、ある程度の年齢になって恋愛をするのが当たり前になってくると、いちいち友達に報告するようなことはほとんどない。
だから、「彼氏との結婚が決まったよ!」だったら普通の友達として、して当然の業務連絡というかただの報告で済むのだが、「彼氏にペアリングをもらっちゃった」などと言った日には、「自慢話かよ」と思われること請け合いなのだ。
そう、なぜなら、婚約指輪と違ってペアリングというのは、「別にあってもなくてもいいもの」だからだ!
買うカップルもいれば、買わないカップルもいる。常につけているカップルもいれば、つけていないカップルもいる。
けれどもだからこそ、それでもペアリングをつけているということはイコール、「この子は、彼氏にすごく愛されている女なのではないか!?」と、無意識に想像してしまうわけである。
いやいや、そんな指輪ごときで大げさなと思われるかもしれない。
でもさ、ちょっとよく考えてみてくださいよ。
「右手に指輪をつけている」ということは、それだけで
・彼氏に指輪を買ってもらったのでは?
・右手薬指につけているということは、他の男に「彼氏いますアピール」をしているということだから、彼氏はこの子のことを「他の男に取られたくない」と思っている=結構大事にされているのでは?
・ペアリングを買うくらいだから、結婚も視野に入れて付き合っているのでは?
と、ざっと考えただけでもこれだけの可能性を脳裏に浮かばせることになるじゃないですか、え!?
ああ、なんということか!
たった一つの金属の輪っかが右手薬指についているというただそれだけで、一瞬にして友達同士の心の中をざわりと揺り動かす恐ろしいアイテムへと早変わりするわけですよ!
しかも、しかもですよ!
ペアリングをしている側の人間というのは、友達から聞かれない限りは、「ペアリングもらった」ということは話しにくいものなのだ。「自慢話乙!」「惚気乙!」などと思われたら、今後の友情にヒビが入りかねない。だから、そのペアリングの話題に触れるとすれば、気になっているこっち側から「それ、ペアリング? どうしたの?」と聞くしか方法がないのである!
恐るべし、右手薬指のリング!
ただ「今までつけていなかった人がある日、突然つけるようになった」という事実だけで、もう女子会の心理戦がスタートする。ゴングがホテルのビュッフェ会場にガチコーンと鳴り響くわけである!
ああ、私も何度、右手薬指のリングに気持ちを左右されてきたことか!
インスタグラムに載っている写真の中で、「虫歯ポーズ」(自撮りなどをするときに手のひらをほっぺたにくっつけて小顔に見せるやり方)をしている右手に指輪がついているのを発見して動揺したことが、これまでの人生で何度あることか!
高校生の頃、あんまりイケてないグループにいると思っていた同級生が垢抜けて綺麗になっていると、ついついその子のSNSのタイムラインを遡って右手をチェックしてしまうネットストーカーっぷりを発揮するようになったのは、いつからだったか!
そうしてペアリングにものすごい執着心と憧れを持っていた私が、ついに彼氏にペアリングをもらったときの喜びといったら! もらってすぐの女子会に行ったときのウキウキ感といったら!「それどうしたの?」と言われるのを期待して行ったのに、何もつっこんでもらえなかったときのガッカリ感といったら(まあ、その人とは結局別れたけど)!
ああ、もうおわかりでしょう! おわかりのはずだ! わかってもらえますよね!?
右手薬指のリングというのは、女子の間のジェラシーをばちばちと鳴らし、いわゆるマウンティングを誘う要素として、恐るべき効果を発揮するのである!
なんとまあ!
なんとまあ!
なんとまあ、罪深いものが、罪深い謎の常識が生まれてしまったことか!
そもそも、どうしてみんなペアリングを右手の薬指につけるんだよ!
もういいだろうが! 親指とかじゃだめなんか!? なんで右手の薬指なんだよ! もうおしゃれで済ませることってできないの!? 怖い! 怖いですよね? なんでこんなに気にしちゃうんだよ! こんなこともうやめたいんですよ! なんか運動とか起こしたい! 右手薬指被害者の会とか作りたい! ペアリング撲滅運動とかやりたい! もういやだよ! 気にしたくないよ! うわああああ!!
……
……
ああ、いや、わかってます。わかってるんです。
こんな細かいことでいちいちギャーギャー言ってるの、私くらいだってことわかってるんです。
さも女子全員の意見を代弁しているかのように書きましたが、ここまで神経質になるのは私だけですよね。そうです。わかってます。女子の皆さん、仲間に引き摺り込もうとしてごめんなさい。
はあ……。やばい、どうしよう。なんか暗い気分になってきた。
共感してほしくて書いたのに、自分の嫉妬深さを自覚して死にたくなってきたので、ちょっとパルコで指輪でも買って現実逃避してくるか。
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。
2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。
「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。
メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。
現在はフリーランスライターとしても活動中。
『私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)がデビュー作。