Qアノンとは、小児性愛者と闘うという極右の陰謀論集団のことだ。FBIは、「Qアノンが国内テロの脅威になり得る」ととらえている。しかし、飛行機で隣り合わせたQアノン信者は、拍子抜けするほどアメリカのどこにでもいるような中流家庭の主婦だった。なぜアメリカ人は陰謀論にはまりやすいのか。
※本稿は、横田増生『「トランプ信者」潜入一年』(小学館)の一部を抜粋・再編集したものです。敬称略、年齢や肩書は、取材当時のまま。参考文献については、書籍の最後に一覧で表記してあります。
>>連載初回『米国の民主主義は私の目の前で死んだ...議会襲撃事件を潜入ジャーナリストが渾身ルポ』から読む
陰謀論信者Qアノンと行く「連邦議事堂襲撃」への道
ワシントンDCに向かうためランシングのアパートを早朝に出発し、デトロイトの空港で飛行機を乗り換えたのは、5日の朝8時台のこと。
3人掛けの座席で私が座るのは通路側。真ん中の席は空席で、窓際には白人女性が座っていた。朝食代わりなのかラズベリーパンを食べながら、数独の升目を埋めていた。
ブルーのシャツの上に同系色のジャケットを着ていた女性の腕元を見ると、ビーズ細工で《Qanon》の文字があった。
私は慌てて名刺を探し出し、自己紹介してから、「Qアノンの信者なんですか?」と尋ねた。
「そうよ。Qアノンの信者よ」と、笑顔で答えたのは、ミシガン州ミルフォードに住むホーリー・スパルディング(47)だった。
スパルディングが、トランプ再選を後押しするため、ワシントンDCに行くのは、3回目になる。《アメリカを救え》という集会が開催され、それに参加していたのだ。前の2回は知り合いと車でワシントンDCに来たが、今回は、これまで貯めた航空会社のマイレージを使い飛行機に乗った。
QアノンのQとは集団の主催者を指し、そのQが出す質問に対し、匿名の信者がその答えを探し出す。Qアノンとは、小児性愛者と闘うという極右の陰謀論集団のことだ。FBIは、「Qアノンが国内テロの脅威になり得る」ととらえている。
私は1年近く、このQアノンの信者に取材したいと思っていたのだが、それが、あっさりと叶った。