“談合のドン”平島栄が訴えた「談合は必要悪、建設業に独禁法はなじまない」

 1960年代、高度経済成長時代の道路、鉄道、ダムといった大型公共工事では、当たり前のように談合が存在し、しかも政治家の意をくんだ「大物仕切り屋」が君臨していた。

 平島栄(1923年~2004年3月19日)は関西地区を仕切ってきた“談合のドン”だった。大林組常務から93年に西松建設の取締役相談役に招かれたが、ちょうどこの年、ゼネコン汚職事件(中央政府や地方政界にゼネコンから多額の賄賂が送られていた事件)が判明。ゼネコン業界のコンプライアンス(法令順守)に世間の注目が集まり、談合組織の解体が始まったとされる。

 97年、平島は自ら、関西地区の公共工事で大手ゼネコンが談合していたことを示す内部資料を公正取引委員会に持ち込み、調査を求めた。談合の全てを知る男の前代未聞の行動は、ゼネコン業界のみならず政界も震撼させた。もっとも平島は、自ら行ってきた悪事を告白したわけではない。平島の主張は一貫して、談合とは「市場構造の不健全が生み出す自衛行為」であって、価格カルテルのような不当な利潤を上げるための悪巧みではないというものだ。あくまで「談合を認めてほしい」という思いだった。

「週刊ダイヤモンド」99年4月3日号に掲載されたインタビューの中でも、「建設業への独禁法の適用を除外していただき、談合を違法視せずに必要悪として認めてほしい。真実をひた隠し『私はやっていません』と逃げ隠れするような姿勢ばかりを取っていたのでは問題解決にはならないし、本質は改善されない。この機会に建設問題について、政・官・業が一体となって徹底した本音の議論をすべきだと思う」と語っている。

 2005年末に大林組、清水建設、鹿島、大成建設の大手ゼネコン4社は「談合決別」を宣言した。しかしその後も、大手4社に対する課徴金が課せられた案件としては、名古屋市営地下鉄(07年)、防衛施設庁の土木工事(07年)、北陸新幹線(14年)、東日本大震災の舗装復旧工事(16年)、リニア中央新幹線(20年)などがある。談合は決してなくなったわけではない。(敬称略)(週刊ダイヤモンド/ダイヤモンド・オンライン元編集長 深澤 献)

独禁法が規定しているカルテルと
建設談合はまったく異質のもの

「週刊ダイヤモンド」1999年4月3日号1999年4月3日号より

――かつて“談合のドン”として、長い間関西地区の公共事業に関わってきたといわれていたが。

 私は過去のことについての話ならお断りする。

――独禁法の定める談合について、建前ではなく本音を伺いたい。

 建設業界の企業責任者や談合担当者は常に、外に対しては建前で、内に対しては本音で話をしてきた。それはわが国が法治国家である以上、独禁法というものがたとえなじめない法であっても尊重しなければならないことは分かっているからだ。しかし、分かっていてもそうはいかない場合が多々ある。

 私は今は企業の一員ではないので、本音で話をしたいと思う。そして私が投げた石が大きな波紋となり、このことが建設業界の構造改革の始まりになればいいと思っている。

 談合という言葉は、刑法上の言葉であって、談合と言われるとなにか悪いことをしているように思えてならない。日本では、特に建設業は“談合体質”が抜け切らないとか言われ、日米間では建設摩擦を引き起こしているが、米国側の言う“談合体質”とは、いったいどこからきているのか。日本の独禁法に対する適用基準の曖昧さに原因があるのか、それとも建設談合=価格カルテルと断定しているのではないかとも思われる。

 建設談合は、独禁法が規定しているカルテルとはその動機、意図、目的効果などを考えた場合、まったく異質のものだ。業界がやっているのは、いわゆる談合ではなく“配分”、すなわち受注予定者を決めるだけのことだと思っている。建設工事の配分は、公共工事の性格から考えても、一部の業者に偏ることなく、全体に公平に配分されるべきものだと思う。

――つい最近も名古屋の地下鉄工事の入札などで談合が行われているという“タレ込み”があるなど、談合情報は後を絶たない。平島さんが活動していた関西はどうなのか。

 名古屋の事件では、地元紙は騒いでいるようだが、談合が悪だから「タレ込まれた」のではなく、JV(ジョイントベンチャー=共同企業体)を組んだ自分たちの企業体に仕事が当たらなかったので、おそらく腹いせにやられたのだと思われる。関西でもいまだ談合をしているかとの質問だが、会社を辞めた今では、私は仕事のことにはまったく関心がないし、分からない。仮に談合によって受注予定者がどこに決まろうと、私には興味がない。