ビジネスで結果を出す人は「妄想」を手なづけ、圧倒的インパクトを生み出している。その手法を解説した書籍として、各業界のトップランナーたちに絶賛されているのが、戦略デザイナー・佐宗邦威さんによる『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)という一冊だ。「つねに根拠ばかりを求める世の中」や「論理ばかりに偏った考え方」に違和感を抱く人には、共鳴する部分もかなり多い。本稿では、ポストコロナ時代を生き抜くヒントに満ち溢れた同書の一部を抜粋・編集してお届けする。

【「自分の意見がない人」に効果あり】赤ちゃんのように考える技術とは?Photo: Adobe Stock

「手さぐり上手」が生き残る──センス・メイキング理論

 テクノロジーが与えてくれる「シンプルでわかりやすい世界」にばかり触れていると、人からは「自分視点」で考える能力が失われていく。「個人向けにカスタマイズされた情報」に触れているはずなのに、人と同じようなことしか考えられなくなる。

 経営・マネジメントの分野でも、そうした状況に対する問題意識が生まれ、「自分視点で考える能力」や「知覚力」への見直しが進んでいる。

 その代表格が、組織心理学者のカール・ワイクが中心となって提唱した「センス・メイキング理論」だ。

 これは外界の状況を「感じ取り(sense)」、そのなかから固有の「意味(sense)」をつくり出す行動モデルだ。

 とくに、激しい変化と高い不確実性が渦巻くVUCAの時代においては、組織のリーダーには、「意味づけ」が問われている。

「いま何が起きているのか」「自分たちは何者なのか」「自分たちはどこに向かっているのか」をリーダーが自分なりに解釈して伝えない限り、メンバーやステークホルダーたちを納得させ、動かしていくことが難しくなっているからである。

 限られた情報のなかから「いま戦場で何が起きているのか」「どうするべきなのか」を意味づけられる指揮官こそが、多数の兵士の命を救うのと同じだ。

「『単純化しないと理解できない』なんて誰が決めたの? 複雑なものを複雑なまま吸収し、自分の理解をつくっていく──そんなことは赤ちゃんだってやっているのに」

 これは、ネットワーク理論を研究する複雑系科学者の佐山弘樹さん(ニューヨーク州立大学ビンガムトン校教授)の言葉だ。彼からこの言葉を聞いたとき、僕自身もハッとさせられた。

 周りで起こっている出来事をそのまま感じ取り、それに対して意味づけするというセンス・メイキングのプロセスは、誰もが新生児のときにやっていることである。

 目が覚めたら、いきなり真っ白な霧のなかに立っていたとしよう。

 そんなとき、僕らはまず必死で目を凝らし、何か手がかりになるものを探そうとするはずだ。

 あるいは、手を差し出して何か触れるものがないかをたしかめたり、声を出して音の反響を調べたりするかもしれない。

 地面の感触はどうか、風の流れはどうか、温度は変化しているかなど、五感を総動員して「どうやら自分はこういう状況にあるようだ」ということを理解していく。

 途方もない作業に思われるかもしれないが、どんな赤ちゃんもそのような「手さぐり」を経験している。

 しかし、言語の習得や知識・経験の蓄積が進むにつれて、僕たちは知覚力を使わなくても生きていけるようになる。

 これもまた佐山氏の言葉だが、「視覚障害を持った人のほうが3次元の知覚力が高い」のだという。

 視覚を頼りにできない人は、目以外から得られる感覚情報や経験値を解釈して、周囲の環境を理解しようとしている。

 目が見えている人はそんなことをしなくても、ものにつまずいたりぶつかったりすることがない。

 そのせいでかえって知覚力が鈍っているというわけである。

センス・メイキングの3プロセス

 ここからわかるとおり、僕たちには本来、センス・メイキングないし知覚の力が備わっている。

 では、その力を取り戻し、鍛えていくのには、どうしたらいいのだろうか?

 この能力を分解すると、知覚力は大きく3つのプロセスから成り立っていると言える。

 ①感知──ありのままに観る
 ②解釈──インプットを自分なりのフレームにまとめる
 ③意味づけ──まとめあげた考えに意味を与える

 僕らが何かをうまく知覚できない場合は、このうちのどれかが滞っていると思われる。

 必要なのは、知覚力の障害物を1つずつ取り除き、その能力を再び発現させていくことだ。

【「自分の意見がない人」に効果あり】赤ちゃんのように考える技術とは?

 まず、前述の視覚障害者の話が示すとおり、豊富な感覚情報を得ている人のほうが、かえって「何かをありのままに感じる機会」が極端に少なくなる。

 だからこそ、できるかぎり既存の解釈フレームを用いずに、五感全体を使って物事を「よく感じる」「ありのままに観る」ためのトレーニングが必要になる。

 さらに、実際に解釈をするにあたっても、いきなり言葉に落とし込まないほうがいい。

 感知した内容のほとんどをそぎ落としてしまう言語化は、最後のステップにとっておき、その手前に「言葉を使わないで、1つの全体像として解釈するステップ」を用意しておくのである。その際に有効なのが「絵で考える」という手法である。

 とはいえ、そのような全体像だけでは思考はドライブしていかない。

 この全体像に「名前」をつけて「言語化」することは不可欠である。

 ここで必要なのは、言語脳とイメージ脳にまたがった両脳思考である。

 とくに、組織やチームでリーダーシップを取る人は、自分以外の人に思考を「納得」させないといけないため、このステップは不可欠だと言えるだろう。

 この力を磨くための具体的な方法論については、拙著『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』で詳しく解説しておいた。